第27話 十月二十七日は読書の日
二〇〇五(平成十七)年「文字・活字文化振興法」により制定。
「読書週間」の一日目。
今日から読書週間で、初日の今日は読書の日だ。読書好きの僕からすれば心躍る一週間となる筈なのだが、先日友達から言われた言葉が心に残っていて浮かれ気分になれない。
それは先週の話だ。来週から読書週間と言うことで、友達にその話をしたんだ。
「来週から読書週間だから、古本屋巡りしたり図書館で借りた本を読んだりして、読書三昧で過ごすんだ」
「そう言えば信也(しんや)って読書家なんだよな」
「えっ……まあ、読書家って言うと照れくさいけど、本はよく読む方だよ」
僕がそう返事をすると、友達は少し考えた後にこう言ったんだ。
「古本や図書館の本を読むのって、作者には何も還元されないよな。読書家ならさ、作者の利益になるように、新品本を買うべきなんじゃないか」
「えっ……」
僕は友達の言葉に戸惑い、何も言うことが出来なかった。
その後、友達には曖昧な返事をしてその場を終えたが、今でも何と返すべきだったか分からない。友達の言うことが正論だとも思うし、かと言って僕の行動が間違っているとも思えない。
読書週間が始まって、読書の日の今日になっても、まだ正解を考えている。
今日は彼女の香(かおり)とデートだ。いつものカフェで待ち合わせして、その場でどんなデートをするかを決めることになっている。
待ち合わせ時間の五分前に店に着き、僕はホットコーヒーを買って香が来ていないか店内を見回した。
居た。香はもう店に来ていて、いつものミルクティーを飲んでいる。
「お待たせ」
僕はコーヒーをテーブルに置いて、香の前に座る。
「ううん、私もさっき来た所よ」
香は僕を見て嬉しそうに笑う。
「今日から読書週間ね」
「あっ、知ってたんだ」
香はそれほど本を読む方じゃないので少し驚いた。
「信也君と付き合うようになってから、本のことに興味が出てきたからね」
「そうなんだ……」
僕はふと、例の友達の言葉を香はどう考えるか聞いてみたくなった。読書家とは言えない香だからこそ、客観的な意見を聞けるかも知れない。
「あのさ、先週友達から読書についてこんなこと言われたんだよ……」
僕は友達の言葉を香に伝えた。
「難しい問題ね……」
話を聞いた香はそう言った後、考えるように言葉を途切れさせた。
「あっ、でも信也君が間違えているとは思えないの。……別に彼氏だからってことじゃなく、見方を変えればリサイクルしていて立派だとも言えるし」
「ありがとう。そう言って貰えると安心するよ」
香が肯定してくれて、素直に嬉しかった。
「でもその友達が言ったことも、全て間違いとは言えないかな……作者が生活していけないと次の本も出せないからね」
香も僕と同じような感想かな。やっぱり読書する人間じゃなくても、そう思うのか。
「うん、僕もそう思うよ」
「でも、信也君は、自分が読む本を全て新品で買うのは無理よね?」
「うん、とてもお金が続かないよ」
大学生の僕では、どんなにバイトしようと読む本全てを買うことは難しい。
「そうよね……じゃあ凄く応援したい作者だけは新品で買うとかは?」
「なるほど、応援の意味で買うってことだね。厳選すれば出来そうだ」
「あと、将来の目標にして勉強や就活の励みにするとか」
「将来の目標?」
「そうよ。将来は読みたい本を全て新品で買えるように、稼げる仕事を目指す励みにするとか」
「そうか……あっ、でもその場合でも凄くお金を使うと思うけど、香は許してくれるの?」
「えっ……」
僕は思わず、将来香と結婚している姿を想像してそう言ってしまった。
「あっ、いや、その……」
「良いわよ。二人でいっぱい働いて、余裕のある暮らしが出来ればね」
香は笑顔でそう言ってくれた。
「うん、じゃあ頑張るよ」
「そうだ、今日のデートは大きい本屋さんに行こうか。折角の読書週間なんだから、いっぱい本を見て一冊ぐらいは買おうよ」
「そうだな。特に今日は読書の日だしね」
香が彼女で良かった。これからの二人の幸せな未来が想像できたから。
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