第10話 十月十日はお好み焼きの日

 オタフクソースが制定。

 お好み焼を焼く音「ジュー(一〇)ジュー(一〇)」の語呂合せ。



 大阪のとあるお好み焼き屋。町中にある小さな個人経営の店だ。大阪のソウルフードと呼ばれるだけあって、大阪にはこのようなお好み焼き屋がいたるところにある。

 今日はこの店に近所のOL二人がランチを食べに来ていた。

 二人が注文したのは豚モダン。通常のお好み焼きに、中華麺が半玉入ったボリュームのあるメニューだ。店員さんが焼いたお好み焼きを二人のテーブルの鉄板に乗せてくれる。弱火で保温しながらアツアツの状態で食べられるのだ。

 二人はお好み焼きを食べ慣れているのか、箸を使わず、コテだけで上手に食べていた。コテでお好み焼きを切り分けると、鉄板の上に落ちたソースが焼けて甘い匂いが店内に充満する。

 二人は一口サイズに切ったお好み焼きを、ハフハフ言いながら口に運んだ。口の中でソースの甘辛さとマヨネーズのマイルドな酸味、青のりや粉カツオの風味がミックスされ、ベースの生地の味を引き立たせる。まるでおもちゃ箱のように様々な調味料や具材が混じり合っているが、不思議と喧嘩せず調和が取れている。それでも苦手な調味料が有れば、外すことも出来る。マヨネーズが苦手なら掛けなくても良いし、中には素焼きで食べる人もいるくらいだ。その名の通り「お好み」で食べられるのが魅力の一つとなっている。


「ここの豚玉は最高やね」


 ギャル風のOLが一口食べ終わって嬉しそうに言う。


「ホンマ、やっぱりトッピングは豚バラやわ。豚の油で表面がカリッと焼けて食感が良いし」


 メガネの地味なOLも美味しそうに頷く。


「この店はソースも良いよね。酸味が強くなくて辛過ぎないのが良いわ」

「いくらでも食べれるよね」


 嬉しそうに会話しながら、二人は本当に美味しそうに食べる。


「そう言えば、この前東京に行ってお好み焼き食べたらビックリしたわ」


 ギャル系OLが眉をひそめる。


「どないしたん?」

「マヨネーズがないと思って、店員さんに頼んだら有料やってん」

「ええ、ホンマに?」

「ホンマホンマ。ビックリしたわ」


 ギャル系OLは呆れ気味に話す。


「せこいことするなあ。東京は。そう言えば、ビックリしたんなら私もあるわ」


 今度は地味系OLが自分の番だと少し身を乗り出す。


「福井県に行った時に、普通に「お好み焼き」って看板出している店に入ったんよ」

「福井県ね……」


 福井県で興味を覚えたのか、ギャル系OLはコテを置いて話を聞く。


「壁のお品書きにも『お好み焼き』としか書いてなかったんで、それを頼んだんよ。そしたら何が出て来たと思う?」

「何よ。もったいぶらんと早よ言うて」

「なんと広島風のお好み焼きが出てきてん」

「ええっ! 『お好み焼き』としか書いてなかったのに?」

「そうなんよ。ビックリするやろ? 広島風ならどこかに広島風って書いてて欲しかったわ」


 地味系OLはその時の様子を思い出して、怒りがよみがえる。


「まあ、福井県って言えば、カツ丼頼んだら、どんぶりご飯にソース掛けただけのカツが乗って来たからな。食文化が違うんちゃう」

「ああ、ソースカツ丼ね。聞いたことあるわ。文句言うてるけど、あれって美味しくなかったん?」


 地味系OLが尋ねる。


「いや、普通に美味しかったわ」

「美味しかったんかーい!」


 突っ込みを入れることが出来て、地味系OLからすれば二重の意味で美味しかった。


「何よ、広島風は美味しくなかったん?」

「いや、広島風も美味しかったんやけどね」

「お前も美味しかったんかーい!」


 今度はギャル系OLが、突っ込めて美味しかった。


「まあ、どんな食べ物でも……」


 地味系OLがそう話し出すと、ギャル系OLも笑顔になる。


「美味しいが正義やねー」


 最後は二人で声を揃えてハモッた。

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