毎日読んで毎日幸せ!「今日は〇〇の日」
滝田タイシン
2022年10月
第1話 十月一日はコーヒーの日
全日本コーヒー協会が千九百八十三年(昭和五十八)年に制定。
国際コーヒー協会が定めた「コーヒー年度」の始まりの日。
コーヒー豆の収穫が終り、新たにコーヒー作りが始まる時期である。
「コーヒー淹れるけど、飲む?」
土曜日の午後、リビングでゲームをしている俺に、キッチンにいる妻の裕子(ゆうこ)から声が掛かる。
昨日、俺達は大喧嘩してしまった。出勤前に早く帰ると約束してたのに、それを忘れた俺は同僚と飲みに行ってしまったのだ。しかも事後連絡で。
約束を守って仕事を切り上げ、早くに帰っていた裕子は当然俺に怒る。俺はラインで謝っただろと逆ギレ。悪いと思っていても、頭ごなしに怒られると素直に謝れなくなるのだ。
結局昨日は大声で喧嘩し合って、そのまま仲直りせず寝てしまった。休日の今日になってもお互い自分で食事を作り、最低限の会話しかしていない。
「ほら、飲むんでしょ」
裕子がそう言ってコーヒーの入った俺のマグカップをローテーブルの上に置く。自分は俺から少し距離を空けて座り、スマホ片手にコーヒーを飲みだした。
裕子が飲んでいるのは、彼女の好きなレギュラーコーヒーだろう。だが、俺の前にあるマグカップに入っているのは、たぶんインスタントコーヒーだ。
俺は裕子にお礼も言わずにマグカップを手に取り一口飲む。
口の中にマイルドな香りが広がる。俺の好きなコーヒーだ。
変わっていると言われることもあるが、俺はレギュラーコーヒーより、「違いが分かる男」が飲むインスタントコーヒーが好きなのだ。
裕子はいつも二度手間でめんどくさいと言いながらも、自分にはレギュラーコーヒー、俺にはインスタントコーヒーを淹れてくれる。
「昨日は約束破ってゴメン」
俺は飲みかけのコーヒーに向かって謝った。
裕子は驚いたように俺を見る。
「コーヒーありがとう。裕子が淹れてくれたコーヒーが謝らせてくれたんだ」
今度は裕子の顔を見ながらそう言った。
「コーヒーで仲直り出来るならお安い御用だわ」
裕子はそう言って、俺のすぐ横に座り直す。俺も裕子の肩に手を回して体を引き寄せた。
もうこんな優しい嫁さんを怒らせないようにしよう。
俺はまたコーヒーを飲みながら心に誓った。
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