第148話 破滅ノ灼閃

 白刃と魔爪が交錯。

 一合、二合と激突させる度に、その余波で高級そうな装飾品が次々と壊れていく。

 いくら力を抑えていても、やはり大部屋程度の閉鎖空間では周囲への影響が凄まじいことになってしまうようだ。

 とはいえ、この地下室が崩壊した時に上がどうなるのか――と考えれば、出力を抑えざるを得ないというのが正直なところだ。


 それも俺は高速機動、萌神は砲撃型であり、やはりこの手の閉鎖空間とは相性が悪い。実質的に、手枷・足枷をしながら戦っているような状況と化していた。


「烈火!?」

「テメェはアタシの後ろから一歩たりとも出るんじゃねぇ」


 それでも近接戦闘クロスレンジに主眼を置いている分、まだ俺の方がマシということで、こういうフォーメーションになっているわけだが――。


「ちょっ!? というか、貴方何者!? そういえばさっきから知った風な顔をして……」

「さあな。強いて言うなら、奴とは腐れ縁ってやつだ。ああ、それから此処ここで見たことは、家に帰ったら全部忘れろ。一切合切、全て残らずにな」

「そんな無茶苦茶!? 認めたくないけど、アレは私の……!」

「お前は巻き込まれただけだ。それにコッチは、アタシらみてェな行き場のねぇロクデナシが生きる世界。良い子ちゃんが、わざわざ首を突っ込んで来るんじゃねぇよ」


 萌神の言い知れぬ力を秘めた言葉を受け、風破が黙りこくる。

 一見すれば、混乱する非戦闘員を強い言葉で鎮めたとしか思えない光景ではあるが、それは気遣いと配慮からの忠告。

 俺としても全くの同意見であるが故に、特にフォローには入らない。


 数年ぶりに接触してきた実の父が改心しておらず、やはりクズだったこと。

 今後はその男からの接触が物理的になくなること。


 その二点だけ分かっていれば、一般人である風破がそれ以上を知る必要はない。

 というより、気に病んだとしても、何の解決にもならないと称するべきだろう。当然、この工場で見た光景に関しても同様に――。

 絶対に答えが出ない問いに対して、彼女が思い悩む必要などないのだから。


「■■■■――!!!!」


 直後、飛び掛かって来る異形に対し、左手の指の間に挟んだ三本の小剣を投擲とうてき

 異形の肘と膝を狙い撃ち、火力を抑えながらもダメージを与えていく。


 “ダガーダーツ”。

 今用いたのは、かつて零華さんが生み出し、俺がテスターを務めた武装の改良発展版。

 余程のことがなければ使わないサブ武装の位置付けとして保有していたが、閉鎖空間での戦闘においては、高出力過ぎる主兵装よりも力を発揮してくれている。


 更に右手に出現させた小剣を放り投げて腹部と脚を狙い打つが、その直後から異形の動きがこれまでとは違う様相を呈し始めた。


「■■、■■■■■■――!?!?」


 誘爆でもされたら一巻の終わり。勝負を決めるためには、絶対的な一撃を確実に命中させなければならない。

 だからこそ、身体に喰らい突かせた小剣をえて炸裂させず、動きを鈍らせるように陽動をかけ続けていく。


「この程度の負傷で動きが鈍くなっている? 素体の性能も一つの要因ファクターになっているのか?」


 両手首からくいを出現させ、一気に射出。

 異形を壁にはりつけにする形で吹き飛ばす。


 “アンカーアイゼン”。

 これもまた零華さんが生み出した武装の一つであり、学園対抗戦の頃よりスペックが増した改良発展版。

 加えて、両武装とも俺が使いやすいようにチューンアップされていることもあり、相応以上の高出力を実現している。その反面、扱いやすさを度外視したせいで、“陽炎”や次期量産期の武装リストに入りすらしなくなってしまったのは、本末転倒なのかもしれないが――。

 ともかく、それを結果オーライに出来るかは、使い手である俺次第だな。


「■■■■、■■■■■■■――!!!!!!」


 戦いの最中、異形が咆哮する。

 更に以前、水流と雷に晒されていた時のように、全身から鮮血を滴らせながら突っ込んで来た。

 まるで痛覚すら失っているかのように――。


 現状の魔導技術で“首狩り悪魔グリムリーパー”を正気に戻すことは出来ない。

 同時にいつ自爆するか分からない以上、生け捕りにすることも不可能。


 事実上、選択肢は一つだけ。


「天月!」

「萌神は防御態勢を……風破は彼女の傍から離れるな」


 そして自爆体勢に入られてしまえば、一片の迷いすら許されない。


「悪いな、風破」

「烈火……?」

「俺は君の父親を殺す」


 サブ武装を引っ込め、白刃を構える。

 現状を打開できる、最強の魔導を放つために――。


「舞え、黒炎……!」


 赫黒灼閃。

 べてをき尽くす煉獄の炎を剣戟に乗せて顕現させた。


 直後、破滅の灼熱が地下空間を包み込む。

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