第146話 再来する狂気

「い、言えるものか! ほ、本当に殺されてしまう!」

「言わなくても同じだけどな」

「ま、待ってくれっ!? 頼むっ!? わ、私は……俺は……ッ!?」


 突き付けた銃身をわざとらしく揺らせば、更に怯えの感情が濃くなっていく。でも流石にここまでの怯え方は異常すぎる。

 コイツが小物なだけなのか。それとも――。


「裏切ってなんかないのにィィッ!?!?」

「これは……!?」


 そんなことを思考していた最中、突如魔力の暴風が吹き荒れる。更に奴の全身に紋様が浮かび上がり、胎動たいどうするかのように波打ち始めた。


「お、お父さ……」

「……ったく、どうなってんだ!? いや、何かデジャヴ?」


 飛び込んでこようとする風破を制してくれている萌神だったが、俺も全く同じ感想を抱いていた。

 だからこそ、この疑問は絶対に明らかにしなければならない。剣圧で暴風を打ち消した一瞬の内、一歩で踏み切って東雲へと肉薄した。


「誰だ!? お前に力を与えたのは!?」

「た、助け……!?」

「一体、誰なのかと聞いている!?」

「と、トル、ドー……うぁ■■あ■■■あああ■っっ!?!?」

「ち……っ!?」


 激しくなった暴風に押し戻され、一端距離を取る。

 一方、奴が紡いだのは驚愕の言葉であり、目の前の既視感を覚える現象と相まって驚愕を禁じ得ない。


 トルドー財閥。

 それは一柳の一件において、存在が判明した謎の組織。

 確かに資金的にも技術的にも、東雲の支援者パトロンとしては十分すぎる。いやむしろ十分を通り越して、異常だと称するべきだろう。

 一柳を操って国家に介入しようとした組織が、社会的弱者に興味を抱くとは考え辛い。献金けんきんと言ってもたかが知れているし、支援するならいくらでも相手を選べるはずなのに――。


「烈火!?」

「前に出るんじゃねぇよ! それより、これってやっぱりあの時・・・の……」

「ああ、このよどんだ魔力に異形の姿。間違いない」


 そして東雲の出で立ちは、暴風の中で見覚えがある形態へと変わっていく。

 かつて刃を交えた異形の怪物へと。


「“首狩り悪魔グリムリーパー”。まさか人間が変質した姿とはな」


 そう、東雲が変質する形で前に現れたのは、外套がいとうと仮面のない“首狩り悪魔グリムリーパー”。

 加えて、さっきまでの暴風に関しても、例の研究施設で奴が命を散らした時と酷似する現象だった。


 無論、個々それぞれでもとんでもない事態ではあるが、驚くべきはそれだけじゃない。なぜなら目の前の現象は、更に重大な真実が判明したことを意味しているからだ。


「トルドー財閥と“首狩り悪魔グリムリーパー”。この二つに関連性があるのなら……」


 それは例の研究所の持ち主であり、この異形の怪物を作り出したのが、共にトルドー財閥であるという事実に他ならない。


  一柳を操り、クオン皇国を支配下に置こうとしたこと。

 社会的弱者を揺動し、皇国内で反乱を起こそうとしたこと。

 フィオナ・ローグの逃走を手助けするかのように現れた“首狩り悪魔グリムリーパー”の存在。

 そして両親との別れのきっかけとなった異形巨竜も、“首狩り悪魔グリムリーパー”と同じ意匠を感じざるを得ない怪物だった。


 つまり俺たちを取り巻く一連の事態の首謀者であり、ずっと追い求めて来た世界の闇。

 その正体が明らかになった瞬間でもあった。

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