第133話 二度目の合流

 とあるショッピングモールの入り口付近。


「よお」

「おう」


 俺と萌神は顔を合わせ、大して久々でもない再会を果たしている。

 ただ今回は俺の方が先に着いていた結果、いつかのカフェでの一幕とは真逆の状況と相成っていた。

 ちなみに今日は単独行動らしく、愉快な仲間たちを連れ歩いていないようだ。


「んで、どういう了見なんだ?」

「それは当然説明するけど、とりあえず場所を移そう」

「あん? そんなに込み入った話なら……」

「いや、そういうことじゃないんだが……」


 首を傾げる萌神に対し、少しばかりの呆れとデジャヴを感じてしまう。どうやらコイツも自分がどう見られているのかについては無頓着なタイプのようだ。

 実際、周囲からの熱視線に気づかずキョトンとしているのだから、まず間違いないだろう。それも思慮深い反面、感情が顔に出るタイプなのは知っているし、ぶりっ子の真逆と言って差し支えない奴なのだから尚更だ。


「昼飯はまだだし、別にいいけどよぉ」

「それならさっさと行こう。入り口を塞ぐのは迷惑になる」

「いや、どう考えても邪魔になってない……って、おい!?」


 周りから注目される所為せいで、もうこのショッピングモールにはいられなくなってしまった。

 結果、俺は萌神を連れ、目立たなそうなレストランへと逃げ込んでいく。


 確かにこうして隣を歩いてみれば、間違いなく萌神は長身モデル体型の美女にしか見えない。

 それこそ雪那が男子の理想を具現化した女子像なのだとすれば、萌神は女子の理想を具現化した女子像とすら称せるレベルなのだろう。

 別に聞かれて困る話をするわけでも、怪しい関係というわけでもないが、後で変な噂になるのはお互いにとってもよろしくないはず。俺としたことが、思わぬ失念をしていたらしい。

 ともかく平和な学園生活と雪那の機嫌を守るため、一刻も早くここから離れなくては――。


「……ったく、顔に似合わず強引な奴だな。いや、アタシを見逃すような奴だし、そのまんまか」


 騒ぎになって一時間ほどが経過した頃、俺の目の前ではお上品にステーキを平らげた萌神が肩を竦めていた。

 微妙にディスられている気がしないでもないが、せっかくご機嫌なところに水を差すつもりはない。

 藪蛇やぶへびは放っておいて、さっさと本題に入ってしまおう。


「んで、どうしてアタシを呼び出したりしたんだ?」

「いや、特に理由は・・・ない・・。強いて言うなら、来てくれそうだったからだな」

「ハァ? アタシだって暇じゃ……」


 萌神の額に青筋が浮かんだのは一瞬のことであり、彼女の表情は元の気怠けだるそうなものへと戻る。

 なぜなら、また厄介ごとか――と、視線で訴えかけて来ながら、この数日間俺たちを付きまとっている連中を横目で一瞥したからだ。


 そう、実は東雲との遭遇以降、俺たちは個々それぞれ何者かに後をつけられていた。それと同時、別口でも俺たちについて色々と調べていたのだろう。


 やたらと早い接触。

 視線を感じるようになった時系列。


 これらの事態から察するに、このストーカー染みた連中の正体は、東雲家か“KEINERAGEカイナエイジ”に連なる者である可能性が高いと見て然るべき。

 というより、もし違うのであれば、あの短時間でアザレア園まで辿り着けるわけがないしな。

 だが天月家ウチの警備は、機械的な面でも人員的な面でも過剰なまでに整っている。よって、泊り中の会話や情報は絶対に外に漏れていないと断言できる。

 その結果、作り出されたのが、互いに付かず離れずで遠巻きにお見合いしている状況であるということだ。

 まあ向こうは、こちらが気づいていることを察している感じはないが――。


「何となく、状況は分かった。理由は後で教えろ」

「察しが良くて助かるよ」

「んなことより、色々・・とひでーな。一回、おはらいにでも行ってきた方がいいんじゃねぇの?」


 萌神の言わんとしていることは、二重の意味で理解できる。

 実際、俺たちをつけている連中の尾行は、隠す気があるのかというレベルで丸分かり。専門の人間などではなく、おじさんたちの涙ぐましい追跡ごっことすら思えてしまう有様だった。

 まあ風破たち一般人に気づかれないだけなら、これでも十分なのかもしれないが、やはりこれまで戦ってきた相手と比べてしまうと安っぽい印象を抱いてしまうのは事実。

 それこそ、連中をぶん殴った後に本社を吹っ飛ばしていいのなら、秒で事態を解決させられそうだと思ってしまうほどに――。


 勿論、倫理や法律的にそれは不可能だし、もしやってしまえば即牢獄行き。周りの連中にも迷惑が掛かってしまう。

 だから外堀を埋める情報収集のために、休日を潰してまで出て来たわけだが――。


「全く、進級を控えた春季休業に不順異性交遊なんて、一体何を考えているんだ!? 学生の本文は勉強だと思うのだがね!!」


 本題について考える暇を与えられることもなく、俺たちはよく分からない男子に絡まれることになった。

 だが突然怒鳴りつけて来た男子の顔を見ても、本気マジで心当たりが思い浮かばない。知り合いなら必然的にミツルギ生になるはずだが、この丸眼鏡君――一体、誰なのだろうか。

 神様なんて信じちゃいないが、本当にお祓いに行って来るべきなのかも――と、思わされた瞬間だった。

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