第69話 誓いは一つ、守り抜くこと

「――!」


 俺は床を蹴り飛ばすと共に白刃を振り抜く。

 直後、連中の武器を砕き、剣圧で背後の内壁へと打ち飛ばしていく。


「なにィっ!?」

「ぐ、ぁ……!?」


 しかし室内という閉鎖空間で戦っている上に、相手は腐っても名家お付きの魔導騎士。

 それに何より、数が多いだけあって、この程度で足が止まることはない。


 まあ今回は全員叩きのめせば片が付くのだから、分かりやすくていいが。


ひるむな、相手は学生だ! 陣形を用いて無力化しろ! 五体満足でなくても構わん! 一柳家の顔に泥を塗った愚か者を吊るし上げ、偽りの真実を弁解させるのだ!!」

「今更取りつくろったところで、もう詰んでいるわけだが……!」


 敵の目が向くよりもはやく。

 刃が振るわれるよりもはやく。


 俺は眼前に映る全てを薙ぎ払い、“魔導兵装アルミュール”を破壊しながら大広間を駆ける。


「動きが見えない!? くそっ!? 全方位から押し潰せ!」


 そうして次々と仲間が倒れていく中、いよいよどうにもならなくなったのだろう。

 連中は俺に身動きを取らせないようにと、数に物を言わせて飛び掛かって来る。


 完全武装状態の魔導騎士が津波となって押し寄せてくる様は、色んな意味で強烈ではあるが――。


「悪いが、その他大勢に構っている時間はない。自分たちが戦う意味すら、理解していないのなら……俺の前に、立ちふさがるな……!」


 煌翼天翔。

 展開した蒼白の翼を用いて、全方位から飛び掛かって来る魔導騎士を斬り・・飛ばした。


 “フォートレス・フリューゲル”。

 それはかつて萌神に繰り出したように、翼自体が切断武器にもなり得る。


 よって、煌翼の風切羽かざきりばねを伸ばして、連中の武装を切断。

 加えて瞬時に元の大きさへと戻しながら、羽撃はばたかせて一気に舞い上がる。


 結果、雑兵ぞうひょうを吹き飛ばしながら、戦場の制空権を占有せんゆうするに至った。


 当然、これだけでは終わらない。

 煌翼に光を纏わせ、魔力を炸裂させる。


「目標を掃討する!」


 ――“ネメシス・フルバースト”。


 煌翼から射出されるのは、刃状の蒼い魔力弾。

 それはさながら、剣の雨。


「な、にィ……ッ!?」

「ぐあァ、ッ――!?!?」


 一斉掃射された剣群は茫然と上を見上げる魔導騎士に降り注ぎ、爆炎が大広間を包み込む。


「な……何だ、これは……!?」


 吹き荒れる爆風に煽られて転がる一柳家当主は、呼吸さえ忘れているようだった。

 だが今更許しはわない。

 連中に与える慈悲じひなど、持ち合わせていないのだから――。


「何なんだ!? この化け物はッ!?」


 俺は声を裏返しながら立ち上がった、一柳家当主の顔面を蹴り飛ばす。

 直後、沈黙。


「貴様ァ!? 絶対に……絶対に許さんぞォォッ!!!!!!」

「お前との話は済んでいる。黙って引っ込んでいろ!」

「へぶゥっ!?」


 白刃一閃。

 一柳が振り回して来た金色の大剣を破断する。


「あ……がっ、ぎィ!?」


 一方の吹き飛ぶ一柳は、まだ諦めていないようだ。

 生まれたての小鹿のように膝を震わせながらも、何とか立ち上がって来るが――。


「ぐ、がッ!? ひぃっ、アァっ!?」


 蒼弾連舞。

 展開した“白亜の拳銃アーク・ミラージュ”から魔力弾を撃ち放ち、右肩、左肩、右膝、左膝――と、人体を破壊して戦闘能力を奪っていく。

 勿論、攻撃の威力を最低まで抑えていることは、説明の必要もないだろう。

 連中には、まだ聞かなければならないことが残っているからな。


「さて、残りは……」


 煌翼を纏って滞空する俺の足元には、一柳の精鋭部隊とやらが無残に転がっている。

 後は身を護る様に会場の端で固まっている来賓らいひん者と神宮寺家の勢力を残すのみ。


「ひ……っ!?」


 視線を向ければ、これでもかと言わんばかりに怯えられてしまう。


 たった今繰り広げていた戦いを思えば、理由は明白だろう。

 護身用に彼らが展開している特殊カスタムされた“陽炎”や固有ワンオフ機とは裏腹に、見るからに場慣れしていない様が伝わって来てしまうのだから――。


 これではせっかくの高性能“魔導兵装アルミュール”も宝持ち腐れでしかない。


「まさか、これほどとは……」


 唯一動じていない、神宮寺家当主を除いて――。


 流石は親子だ。

 眼差しに宿る光は、どこか雪那に似ている。

 いやこの場合は、雪那が似ているというべきか。


「どうして、ここまで雪那にこだわる? 学友であることは変わらないのだから、見て見ぬふりをすれば、こんな騒ぎに巻き込まれずとも済んだというのに……」

「……俺は一度全てを失った。大切な人たちを護ることが出来なかったどころか、逆に護られた挙句、俺だけが生き残った。たった一人、俺だけが……」


 全身に鮮血の華を咲かせ、死の淵に立ちながらも微笑を浮かべていた両親。

 目覚めた時、俺を形作っていた世界は一変してしまっていた。


 だから許せなかった。

 異形の巨竜もそれを引き起こした存在も、何も出来なかった俺自身も――。


「立ち止まって腐っていた俺が、またこうして歩き出せたのは雪那のおかげ。だから、その借りを返しに来た」

「借り……だと? そんな矮小わいしょうな理由で……」

「そんな理由だからこそ、俺は此処ここにいる。それが俺の誓い」


 大切な人たちをうしなった悲しみ。

 両親を死に追いやった異変を許容きょようした、世界に対しての怒り。

 無力だった自身に対しての絶望。


 やり場のない思いだけがつのって、心をむしばんでいく日々。

 そんな俺が再び立ち上がるまで、気にかけてくれていたのは――。


「――雪那だけは、護ってみせる」


 そう、これだけは譲れない誓い。

 俺の覚悟。


「正直、驚いている。飛び抜けた才能故に孤高であった娘と、これほどまでに通じ合う者がいたことには……。だが、はいそうですか……と、承服しょうふくするわけにはいかん」


 神宮寺家当主は、西洋剣の刀身を起こして正眼で構えた。


「行くぞ少年! 我が“十字剣ドゥーム”が織りなす剣戟……受け切れるか!?」

「上等……!」


 そして互いの剣がひるがえる。


「良き刃だ……! 流石は雪那が認めただけのことはある!」

「そっちこそ、年甲斐も無くはしゃぎ過ぎでは……!?」


 直後、激突。

 怯える来賓らいひんを尻目に剣戟を重ねていく。


「“ブレイクインパルス”――!」

「斬撃魔導……自分の家でもお構いなしか!?」

「娘に見合うだけの男か確かめるためなら、安いものだ!」

「いやこの家の修繕費は、億じゃ済まないと思うんだが!?」


 とはいえ、あちらがこの様では、もう室内の被害がどうこう言っている場合じゃない。


 何にせよ、このアグレッシブおじさんは、“竜騎兵ドラグーン”と戦った俺からしても脅威足り得ることだけは確かだった。


「仮にも友達の実家というか……全く、豪快すぎるパパ上だな……!」


 雪那とは心を通わせ、諸悪の根源である一柳は倒れた。

 故にこれが本当の最終決戦。


 俺も刃に蒼穹を纏わせ、斬撃魔導で迎え撃つ。

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