第52話 襲来する許嫁
学園対抗戦の代表発表とプチミーティングを終えた後、俺と雪那は帰路に就いている。
「流石に疲れたな」
「烈火はほとんど座っていただけだろう? 全く……」
「Aクラスの事情がほとんど分からないんだから仕方ないだろ。まあ対抗戦当日に勝つ以外、俺に出来ることもなさそうだしな」
それを言っちゃおしまいだ――と、雪那が肩を
まあ俺に求められた役割と、一人だけFクラスだという事情をちゃんと察してくれる大将様だということだ。
とはいえ、実際にこっちの作戦と課題は、俺一人でどうにかなるものではなく――。
「無論、即戦力を求めて烈火を招集したことは事実だろうが、結局は一戦でも多く勝たねば意味がないのだぞ? 全体のレベルアップは急務だし、私たちも確実に勝てる保証はないのだからな」
「そこまでなのか? 相手も同じ学生だろ?」
「いや、
学園対抗戦は、各学年五人の代表同士がぶつかり合う
先鋒から大将までの五人全員が一戦ずつを戦って、三勝した方が勝利――という形式を、学年ごと繰り返すことになる。
そして三学年で一五戦を終えた後、チーム単位での勝ち越しが多い学園の全体勝利となる。
より具体的に表すのなら、一、二、三年の内、最低でも二学年は勝ち越さなければならないということだ。
結果、一戦の重みを
ちなみになぜ勝敗にかかわらず、全員が戦う形式なのかと言えば、一年間で最も大きな宣伝の舞台――要は生徒の成果発表会も兼ねた場であるからだ。
相手を蹴落とすのではなく、あくまで教育の場。
大差がついていようが、お互い全力で戦いましょう――ということだ。
一方でこの形式だからこその残酷さもあるし、一人が何度も戦えない以上、俺や雪那だけが勝っても意味がない。
しかも雪那
一〇年に一人の
何より、向こうには実戦経験者も複数いるらしく、こっちのAクラスが“シオン駐屯地”でどうなっていたのかと考えれば、戦力差は明白だろう。
それも一年に関しては、俺と土守と雪那――という直近で一騒動あって、連携が取れるわけもない人員が実力重視で選ばれてしまっている。
教員からすれば、
とはいえ、対抗戦に参加する以上、雪那だけに負担を強いるつもりはない。
放課後まで、こうしてチームの未来について話し合っているのもそのためだ。
しかしそんな風に歩いている最中、俺たちの隣に一台の車両が横付けで停車した。
光沢のある黒塗りの車体。
金色に輝く女神のモニュメント。
素人が見ても分かる超高級車だ。
まあ堂々と違法駐車している
「……っ!」
その車が目に入った瞬間、突如制服の袖を掴まれる。
大型竜種を前にしても表情一つ変えなかったあの雪那が、表情を凍り付かせて震えていた。
当然困惑することしか出来ないわけだが、程なく車のドアが開かれ――。
「やぁ、雪那じゃないか! 今回は半年ぶりかな? しかし偶然にもこうして出会えるとは!」
車外に出て来たのは、長身の
高級そうなスーツや車から判断するに、金持ちの青年――という
でもキラキラとした青年を見る雪那の顔からは、既に表情が消えて失せていた。
「……お久しぶりです。
「おや、表情が硬いぞ。久々に
車から降りた
一方の雪那は、相変わらず
さて、この男とはとんでもないことを口走っているわけだが、雪那の反応からして本当のことらしい。
俺も
ともかく土守の一件で雪那の恋愛事情が変わることがないと断言した理由は、こういう理由だったわけだ。
「うーん、今から君のご実家に顔を出そうと思っていたのだが、雪那はこんな所で何をしているんだ? 薄暗い中の
雪那
何というか、随分とあからさまだな。
「先ほどまで学園に残っていましたので。それにまだ一七時過ぎです。夜道と呼ぶには、早すぎかと思いますが?」
「全く、雪那が美人であることを差し引いても、油断は禁物だよ。何でもこの辺りで、連続殺人や爆発事故が起きたんだろう? 何かと物騒だし、僕が送っていこう。後ろに乗りなさい」
しかしこの男は、強張った様子の雪那に気付いていないのか、気にもしていないのか。
とにかく自分のペースを崩すことはない。
流石にいつも雪那が拒否反応を示しているから、これが当たり前――なんてことはないだろうに。
いや、まさかな。
そして高級車の扉を開けて雪那を待つ様は、
「私はまだ学友と集まる予定がありますので、失礼させていただきます」
「こんな時間から? それに僕と会ったのに、そんなものを優先するのかい?」
「ええ、行事の予定が差し迫っていますので……」
少女の無機質な声音。
青年の尊大な声音。
何とも対照的なやり取りではあるが、雪那はさっさとこの場を終わらせたいのだろう。
俺の手を引く形で足早に歩き出してしまう。
あの雪那がこっちに確認も取らず、ありもしない予定をでっち上げてまで拒否反応を示すなんて、幼馴染の俺からしても考え付かない事態だった。
相当な事情がありそうだし、余計な口を挟んで場をややこしくする気はない。
よって、この後どうやって接するべきか――と頭を悩ませながら歩き出したわけだが、背後からの有無を言わせぬ声によって、いきなり足を止めることになってしまう。
「駄目だ。今から集まったりしたら、帰りは何時になると思っているんだ? 君ほどの女性が
「私がプライベートで何をしようと、一柳さんには関係ないはずです」
「関係ないわけがないだろう? 婚約者の心配をしない男がどこにいるんだ」
雪那は能面のようだった表情から一転、形の良い眉を歪めて感情を
一方の青年は甘い声で雪那を諭す。
ここまで来ても、やり取りは平行線。
互いに歩み寄る気は皆無であり、どこか気味の悪さを感じてしまう。
「本邸の者に伝えてあるので問題はありません」
「そういうことを言ってるわけじゃないんだが……。まあいい。断りにくいなら君の学友とやらには、僕から話を通そう。それで構わないね?」
「そんな暴論が……」
奴は困ったように息を吐くと、見るからに不機嫌な雪那を
だが相手の要求を受け入れる
なるほど、雪那が拒否反応を示す理由が少しだけ分かった気がする。
「どうせ行く先は同じなんだ。いいから僕の車に乗りなさい」
「――ッ!?」
一方の雪那は伸びて来る腕に身を強張らせるが――。
「……何なんだい、君は?」
奴は自身と雪那との間に割って入って来た――いや、始めから
「れ、っか……?」
一方の雪那も自分を背に隠す様に割って入った俺を見て、絞り出すような声を零していた。
他人の恋愛事情に関わって馬に蹴られるのは
二人の関係性や詳しい事情は未だによく分からないが、少なくとも自分本位なコイツの態度にイラついていることだけは確かだった。
とりあえずは、そのウザったい理論武装を引き
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