第2章 狂気祓う炎
第32話 Fクラスの真実
ある日の午後――。
“シオン駐屯地”の合同演習に参加した九名の生徒は、学園の生徒指導室に集められていた。
用件は先日の合同演習中に起こった、襲撃事件に際しての事情聴取とカウンセリング――だったはずなんだがな。
「騎士団の方々の避難指示を無視した挙句、独断先行して戦闘に参加したァ……!? 本当なのか!? 答えろ天月!!」
「本当も何も報告書の通りですけど」
「あぁ……っ!? 全くなんてことをしてくれたんだ!!」
開口一番、罵声が飛んで来る。
この男は、
ミツルギ学園・生徒指導部の男性教師だ。
一応、叱られる分が余裕で
「お前が勝手なことをしたせいで、騎士団の方々やAクラスの土守たちが怪我をしたんだぞ!? 分かってるのか!?」
「はぁ……」
「だから、自分の立場が分かっているのかと聞いているんだ!? 大体、
事実と想像がごちゃ混ぜだ。
それぞれ騎士団と生徒代表の雪那からも詳細報告書が提出されているはずだし、一体何を元に喋ってるんだ、このオッサンは――。
ともかく、声がデカすぎる。
「他の生徒の怪我は、特異点が開いた直後に不意打ちで負ったもの。戦闘に参加したのは、騎士団の対応が間に合わなかったから。怪我人について、とやかく言われる筋合いはないですね」
独断専行は本当だけど――と、内心付け足しながら、嘆息を漏らす。
「うるさい! お前のせいで神宮寺は避難できずに戦うことになったんだぞ! 自分の立場を
変わらず、滅茶苦茶な論調が続く。
他の連中のように決闘でも挑んで来てくれれば話が早いんだが、生徒と教師という関係性が面倒過ぎる。
一応録音中だが、教育何とか会に駆け込むべきか。
「……お言葉ですが、我々と先生との間に見解の相違が見受けられます」
「どういうことだ? 神宮寺だって巻き込まれた被害者だろう?」
二階堂――一応、先生が一人でヒートアップする中、冷たい怒気がこもった声が話の流れを断ち切る。
「確かに襲撃に巻き込まれたという意味では、被害者に違いありません。ですが生徒や騎士団の方々の負傷と、烈……天月君は無関係です。むしろ彼が動いてくれなかったら、“シオン駐屯地”は壊滅していたはず。私たちもここにいなかった可能性の方が高い」
「はっ、Fクラスなんかが戦場に出たって邪魔なだけだ! 大方、出しゃばって状況を引っ掻き回しただけだろう!? 余計なことはせず、戦闘は騎士団の方々に任せておけば良かったんだよ!」
学園自慢のAクラスの生徒が命からがら逃げ惑い、Fクラスの生徒が脅威に立ち向かう。
そんなことはあり得ない。それが世界の常識。
仮に事実として起こったのだとしても、それは英雄願望のある
大方、報告書を流し読みしながら、こんなストーリーを勝手に作り出したってところか。
行事で生徒が死ぬ可能性があった――と考えれば、Fクラス一人を悪者にする方が保護者にも説明しやすいし、責任問題もあやふやに出来る。
まあそれとは別に、こういう人種は説教が好きだろうしな。
ちなみに同じ生徒でありながら、Fクラスだけあまりにも見下され過ぎではないか――と思うかもしれないが、これは一種の救済
現状の世界情勢を考えれば、優秀な魔導騎士は一人でも多い方が良い。
逆にそれ以外の大多数――要は大金持ちや特殊な資格、技能を持つ者以外の一般人に関しては、勝手に増えるし替えも利く。アザレア園の一件は、正しく優先順位の低い子供が切り捨てられようとしている現状を示している。
つまりこれだけ科学と魔導が発展していながら、今の世界は世紀末極まりないということ。
それは当然、魔導騎士の中でも、明確に優先順位が付いてしまうことを意味している。
例えば、同じ一〇の学費を取ったとして、Fクラスにはその二割を使って教育。残る八割は、他の生徒に回される。
年一クラスを犠牲すれば、他の多くの生徒は質の高い教育が受けられるようになるわけだ。そうして手塩に掛けた生徒が育ち、一〇人でも、一〇〇人でも、守れば全てが帳消しになる。
結果出来上がったのが、Fクラスは様々な面で冷遇され、他の面々は質の良い教育を受けられるという状況だった。
ではなぜ救済措置なのかと言えば、即戦力を求めた結果、成績の低い方ではなく高い方に合わせて教育が行われるようになったから。
故に同レベルを一ヵ所に集める方が都合が良いため、成績順でクラスが分けられるようになった。
よって、本来のFクラスとは、
現に今でも続いている理由は、学園、他生徒、Fクラス――大きさの差はあれ、共に一定のメリットがある制度だったからだ。
一方、国の守護者となる成績上位生徒との差が凄まじく広がる分、反対に
まあ生徒の前で口に出す辺り、やっぱりこの男はちょっとアレだが。
とはいえ、平等や教育の機会――という様な考えからすれば、かなり歪んでいることだろう。
だが行き詰まった情勢と遠くない世界の滅びが迫っているのだから、なりふり構っていられる状況ではないというのも事実。
“
魔導騎士に対抗できるのも魔導騎士だけであり、他国に後れを取るわけにはいかない。
この苛烈な競争こそが、“
「……で、結局何が言いたいんですか?」
「だから教師に対して、そのふてぶてしい態度はなんだと言っている!」
俺は開いた口が塞がらない雪那に変わり、二階堂の真意を問いただす。
でもそんな俺の口ぶりが気に食わなかったのか、
更にそれからも人間の血管の耐久限界に挑むかの如く、罵詈雑言が撒き散らされ続け――。
「はぁ……ッ! まあいい。本題に入ろう」
二階堂は、大好きな説教が出来てやっと満足したのだろう。
やれやれ――と言った風に話を変える。
気弱そうな花咲や俺が責められてニヤニヤしていた土守の取り巻きたちですらも、今はドン引きしている辺り、その内容はお察しレベルではあったが。
「まずお前たちも耳が痛くなるほど聞いたことだろうが、この一件に関しては
おぉ、教師っぽい――と、普通のことを言っているはずなのに、酷く感心してしまう。
だがやはり空気の読めなさは天下一品のようで――。
「それと……神宮寺には今回の一件で
「――ッ!?」
――
それは本職の騎士団員にとってですら、一生自慢話の種になるレベルの名誉だ。
なにせ、多く戦果を挙げた者にしか与えられないのだから――。
ましてや学生に――なんて、前代未聞だった。
土守に至っては、
とはいえ、
何と言っても、一生のトラウマになってもおかしくない襲撃事件を生き延びた直後だ。
生徒の心身を考えれば、風破たちが本調子でないことは子供でも分かるはず。
だが当の二階堂本人は、まるでトロフィーでも得たかのようにご満悦だった。
大方、俺が育てた生徒――とでも、周りに言いふらしたいのだろう。
いくらベテランに差し掛かりつつある教師とはいえ、今回の一件とは
「それと天月の独断専行に関しては、
「何をしているのですか、二階堂先生?」
二階堂は、俺を
もう停学でも何でもいいから、流石に手か足が出てしまいそうだ。
だが寸前のところで聞こえて来た声と共に、奴の得意げな顔が青ざめていく。
現れたのは――。
「なッ!? ほ、鳳城先生!?」
長い黒髪を
ミツルギ学園・魔導実技最高責任者――鳳城唯架。
そう、生徒指導とは関係ない出しゃばりで俺たちを無理やり
それと、生徒からの信頼も――。
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