第21話 騎士団との合同演習!

 香る潮風。

 フカフカの座席。


 俺を含めたミツルギ学園の一部生徒は、学園から出発したマイクロバスの座席に腰かけ、窓越しに広がる海沿いの景色をながめている。

 それから程なく――静かなブレーキ音と共に車体が揺れ、目的地に到着したことが運転手の口から伝えられた。


 プシュっと、景気の良い音を立ててドアが開く。

 そして車両から降りた先には、巨大な軍事施設が広がっていた。


「今日からしばらく、この“シオン駐屯地ちゅうとんち”の方々との合同演習だ! くれぐれも粗相そそうのないようにな。ではバスから降りた後は、私について来るように!」


 俺たちを先導するのは、ミツルギ学園一年Bクラス担任にして、魔導実技最高責任者――鳳城唯架ほうじょうゆいか

 若きトップエリートにして、学園一の美人教師だ。


 そして物珍しそうに施設を見渡していた生徒たちは、黒スーツを着こなしている美人教師によって制され、集合場所である食堂へ先導されていく。


「進級間近とはいえ、わざわざ一年がかつぎ出されるとはな」

「自分たちの姿を近くで見せることで、学生のレベルアップを図る。国防方面も苦しいのだろう」


 最後尾を俺と共に歩く雪那が神妙な面持ちで答える。


 ちなみに天命騎士団の拠点として三番目の規模を誇る“シオン駐屯地”に赴いたのは、九人の一年生。

 固有ワンオフ機持ちだということで引っ張り出された一名を除けば、教師陣が選考した優秀な者で構成されたグループとのこと。

 よって、学年トップの雪那が呼ばれない理由はない。


 こうして結果的にではあるが、俺と雪那は久々に肩を並べて学園行事に参加することになったわけだ。

 何より今回の合同演習こそ、以前雪那が言っていた少々大きなイベントだった。


「とはいえ、なぜ自分たちが呼ばれたのかを理解していない者が、ほとんどの様だが……」

「完全に体験学習か将来のコネづくりとしか、思ってなさそうだな」


 観光気分で周囲を見回す生徒に対し、鳳城先生は頭が痛そうな表情を浮かべている。


 今はどこの国も、“異次元獣ディメンズビースト”の侵攻によって疲弊ひへいしきっている。

 しかも連中の戦力が未知数である一方、唯一カウンターアクションを起こせる魔導騎士の損失も無視できないものとなっているらしい。

 つまり最悪のケースを想定するなら、国防体制の崩壊まで考えられるということ。


 なら戦力の損失を補填ほてんする手段は一つしかない。


「本当に切羽詰まった時、学生からも徴兵ちょうへいされる可能性がある。そのために学生を高めさせ、実力のレベルアップを図る……か」

「ああ、それにミツルギ学園は、クオン皇国最大の養成機関だ。軍部から声がかかる可能性は、他よりも高い。少しでも慣らしておく必要があるのだろう」


 そう、これは次代じだいの戦力を発掘するための合同訓練であり、今回は軍部の受け入れ体制作りをねたテストケース。

 結果、第一陣として俺たちを含めた選抜生徒が振り分けられ、別々の駐屯地ちゅうとんちに派遣されたわけだ。


 でもどうせ振り分けるなら、もう少し人選を何とかして欲しかった――と思いながら、俺は待機所である食堂の椅子に腰かけ、溜息ためいきを漏らす。


 実際、引率者の鳳城先生が挨拶あいさつ回りに出向いた瞬間、場の空気は険悪けんあく極まりない物に変化していたのだから――。

 もちろん、場の空気を乱しているのが、同じグループになってしまった土守一派であるのは説明するまでもない。


「バスの中でも凄かったけど、やっかみもここまで来ると感心しちゃうね」

「あんなのに構うだけ時間の無駄だ。放っておけばいいんだよ」

「あはは……すっかり慣れたもんだよね。確か土守君の両サイドもコテンパンにしたんだっけ?」


 風破は机を三つ挟んで向こう側に腰かけている連中をあきれたように見ると、あちらに聞こえないよう小声でつぶやく。


 俺がアザレア園を訪れた日から、既に二週間。


 その間、何かと因縁いんねんを付けられては、模擬戦を繰り返す日々を送っていた。

 まあ“アイオーン”の稼動データも採れる機会にもなるし、空白期間ブランク解消の運動としてもちょうどいい。

 そんなこんなで土守一派の二人を返り討ちにしたことは事実だった。ホントにAクラスなのか、不安になる実力ではあったが――。


 ちなみに風破がここにいる理由は、当然学年三位であるから。

 風破にとってみれば、早速注目される機会到来――という感じなのだろう。見るからに気合が入っている。


 だがそんなことを考えながら新しい友人と話していると、隣から凄まじい殺気を感じた。


「……んっ! 間もなく移動の時間だ」

「え、ああ……うん」


 俺たちに突き刺さるのは、絶対零度の視線。

 目を向ければ、全身から黒いオーラを噴出させている雪那がそこにいる。


 確か雪那の魔力光は、銀色だったはずだが――。


「どうした?」

「……なんでもない」


 とはいえ、どことなく不機嫌な雪那に対しては、首を傾げることしか出来ない。当の雪那はそっぽを向いてしまうし、何がなんやら。


 すぐ隣ではジト目と膨れっ面を装備した雪那。

 机を挟めば視界に入れる価値もない土守一派。

 風破も緊張やら戸惑いやらで、若干テンパっているようだし、目を向ける先がない。


 混沌カオスだ。


 だが俺たちは知らなかった。

 初日からこの居心地の悪い空間を超える地獄が待ち受けていようとは――。

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