第10話 異常な戦闘能力【side:第二研究所】

 ◆ ◇ ◆



 ――クオン第二魔導兵装研究所・稼働かどうデータ分析用モニタールーム。



 サラ・キサラギは、戦闘シミュレーターを操作する機器の前で、何とも言えない表情を浮かべていた。


 これから行われるのは、学園や騎士団でも採用されている戦闘訓練のシミュレーション。

 魔導技術を用いた装置で、過去に襲来した異次元獣ディメンズビーストを再現して戦うというものだ。


 しかしそれに挑むのは、学園の出来損ないFクラス

 その当人が用いるのは、零華が趣味全開で開発した結果、誰にも扱えなくなった殺人マシン。


 結果など火を見るより明らかなのだから――。


「所長のご家族にこんなことを言いたくはないですが、彼はFクラスなんですよね? その、無理なんじゃ……っ!?」


 控えめに、しかし客観きゃっかん的な事実を伝えたサラだったが、突如投げ渡されたタブレット端末たんまつを精一杯受け止める。

 だが本当の驚きはここからだった。

 なぜなら、その端末に表示されたデータは、異常極まりない数値を示していたからだ。


「これは……っ?」

「……ミツルギ学園を襲撃した“サベージタウロス”との戦闘で、あの子が使った“陽炎”の詳細稼働データよ」

「戦闘、彼が!? いやそれより機体損傷度“D”って、危険域レッドゾーンじゃないですか!? それになんなの、これ……。駆動くどう系への負担が物凄い。しかも魔力の収束に耐え切れず、魔導兵装アルミュールの方が自壊じかいするなんて……!?」


 サラはタブレット端末に表示された異常イリーガルなデータを、一心不乱に読みあさる。

 生徒個人が学園所有魔導兵装アルミュールのデータを改竄かいざんすることは不可能。

 よって、データは嘘をつかない。

 たとえ、Fクラスの落ちこぼれが使った結果なのだとしても――。


「敵に壊されたわけでもなければ、きちんと整備もされていた。それなのに……一体どういう使い方をしたらこうなるんですか?」


 “魔導兵装アルミュール”は、魔導騎士にとって武器であり鎧だ。

 故に戦闘中に内側から破損することなどあってはならないし、今までに例のない現象だった。

 ましてやFクラス生徒が一度使った程度でそんな風に壊れるなど、天文学的な確率だと言えるだろう。


 だがデータが示す中でも、特に烈火の反応速度と魔力出力は、常人をはるかに超えている。

 結果、その異質と称するしかない数値は、“陽炎”という機体の限界を遥かに超えており、見事に過負荷からのオーバーヒートを起こさせてしまったわけだ。

 これは天文学的な運などではなく、きちんと証明できる科学的な現象だ。


 ただ常識外れな現象を素直に受け入れられるのかは別問題というだけで――。


「サラちゃん。データなら後で見られるから、今はこっちに注目したほうがいいと思うわよ。じゃあ、シミュレーションを始めるわ」


 一方の零華はデータを見て考察を始めたサラを楽しげに見つめていたものの、準備が整ったと視線を訓練スペースに誘導しながら烈火に指示を出す。

 そうしてサラが視線を向ければ、画面の向こうで烈火が“魔導兵装アルミュール”を展開した。


「凄い……三年生でもこんなに……」


 戦闘装束や武装の展開速度には、術者の技量が反映される。

 恐ろしくスムーズな烈火の展開動作は、一種の芸術の域にも達していた。


「じゃあ、いくわよー」

「え、え……はぁ、っ!? ちょっと何を……!?」


 サラの眼差しに宿るのは、期待と不安。

 だが零華が最高難易度・・・・・に設定したシミュレーションプログラムを起動しようとしているところを目の当たりにしてしまえば、開いた口がふさがらない。


 最高難易度と言えば、開発者が趣味で設定した半ばいじめの様な内容だ。はっきり言って正規軍でも、率先そっせんしてやろうとする者はまずいない。

 飲み会やじゃんけん負けの罰ゲーム挑戦としても、たちが悪すぎる内容だと誰もが知っているからだ。


 ましてやそれを学園の生徒――しかも最底辺のFクラスにやらせるなど、正気の沙汰さたではない。

 しかしサラの制止は一歩遅く、戦闘シミュレーターはそのまま起動してしまう。

 こうなってしまえば、もう烈火の身を案じることしかできない。


 どこか得意げな零華に疑念を抱きながらモニターに目を向けるが――。


「これ、は……!?」


 サラは画面全てを埋め尽くした蒼穹の光に目を見開く。


 誰にも扱えなかった“魔導兵装アルミュール”。

 それを駆るのは、学園の落ちこぼれと呼ばれている少年。


 理由は分からなくとも、今まで隠され続けて来た烈火の力が白日の下に晒された時、学園はどうなってしまうのか。

 そんな興奮を抱きながら、サラは烈火の戦いを夢中になって見守っていた。

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