第7話 決闘宣言!

 白銀の魔力が舞い、雪那の足元が凍り始める。


「ひっ!?」


 朔乃は凍気とうきが発する寒さと雪那自身から発せられる殺気のダブルパンチを受け、生まれたての小鹿のように震えている。

 実際このままでは、マジで死人が出かねないことは事実だった。


 そして二度目。


「言いたいことは、それだけなのかと聞いている」

「ぅ、く……っ!?」


 地獄の底から響いたのかと錯覚さっかくさせられる声音が、陰湿いんしつな空気を凍り付かせた。


「……せ、雪那さん、一体どうしたのかな?」


 鋭利えいりな眼光をびた土守も、恐怖で全身を震わせている。

 それに普段冷静な雪那が見せた憤激の感情を受け、俺以外の全員が震え上がっていた。


貴様・・が誰に対して、何を思おうが知ったことではない。だが私は自分の意志・・・・・烈火・・と共にいる。とやかく言われる筋合いはないし、貴様に話しかけられる方が迷惑だ」

「な、何を言っているんだ!? 僕は土守家の一員で、将来有望な魔導騎士候補……。対してコイツは学園の恥……いや、空気を吸うことすら罪だろ!? この僕とは、比べるまでもないだろうが!?」

「少人数を囲んでえつひたる。私からすれば、貴様ら・・・の方が学園の恥だが?」

「どういう意味だよ!? それはっ!?」

「それが分からない時点で貴様らは、その程度だということだ。無論、Fクラス生徒側にも大きな問題はあるが……」


 怒りを通り越して呆れ交じりの皮肉をぶつけられた瞬間、土守は顔を真っ赤にしてわめき散らす。

 しかし当の雪那は、我関われかんせず。

 むしろ周囲を見渡し、辺り全体向けて吐き捨てるようにつぶやいた。


「ともかく、これ以上騒ぎ立てるなら生徒会としても動かざるを得ない。当然、下らん理由での私闘しとうも認められない」

「そ、そんな……お、お前はどうなんだ! 僕にこれだけ言われて悔しくないわけないだろう!?」


 見事な正論パンチ。

 土守は完全に論破されてしまい、ぐうの音も出ない。というか、この単細胞コイツは、初めからこうなるのが分かっていなかったのだろうか。

 だが奴にもプライドがあるのか、余程自分に自信があるのか、まだ諦めない。どうにかして決闘の流れに持っていきたいようだった。


「Fクラス風情の僕では、エリートの僕様には勝てません。さっさと失せてくれると嬉しい」

「……恐ろしく棒読みだな」

「神宮寺さんのツッコミ……っ!?」

「貴様ら僕を馬鹿にしているのか!?」

「逆に僕様には馬鹿にされない言動をして欲しいわけだが?」

「貴様ぁァァ!!!!!!」


 パチパチと拍手する俺。

 ジト目を向けて来る雪那と呆然ぼうぜんとする朔乃。

 対してブチギレ土守に右往左往うおうさおうし始めた取り巻き、野次馬共。


 穏やかな朝の登校風景とするなら、あまりにも混沌カオスだ。


「いい加減に見苦しい。さあ、この話は終わりだ! 各自、校舎に……」

「分かった。その決闘とやらを受けてもいい」

「なっ!? 烈火!?」


 そんなこんなで事態は終幕を迎えようとしていたが、俺は決闘とやらを承諾しょうだくした。

 理由は二つある。


「本当か!? ふふっ、その意気いきし。少しだけ……ほんの少しだけ君のことを見直したよ!」

「ただし、条件がある」

「ほう、普段ならFクラスの言葉など一蹴いっしゅうするところだが、今日の僕は機嫌が良い。さあ、話してみまえ!」


 一つ目の理由は、ここで断っても粘着ねんちゃくされ続けることが分かり切っているから。

 それなら奴が言う証人とやらの前で白黒つけてしまえば、話が早い。


 そして、もう一つの理由は――。


「……俺が勝った場合は今後一切、雪那に近づかないと約束しろ。もちろん、俺が負けた場合は、そちらの要求を飲む。悪くはない条件だろう?」

「ふん、いいだろう。その言葉、忘れるなよ! 待っていてくれ、雪那さん。君の隣に相応ふさわしいのが誰か……我が剣にかけて証明してみせよう!!」


 俺の承諾しょうだくを聞いた土守は態度を一転、どこかで行方不明になっていた王子様オーラを取り直したようだ。


 そして俺には嘲笑ちょうしょう、雪那には親しそうに声をかけ、取り巻きを引き連れて校舎へと歩いて行った。

 嵐のような朝も、これで一段落。

 野次馬となっていた生徒は、それぞれの日常へと戻る。


 負ければ退学。

 勝っても俺にはメリットはない。


 だがブランク明けのウォーミングアップには、むしろちょうど良い相手なのかもしれない。

 要は負けなければいい。単純明快だ。

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