第忌譚【照る照る坊主】・弐戎

ー五六零士ー


「 ? ……ここは ? 」

『零士』

「え……っ、星 ! ? 」


 目が覚めると見覚えのない部屋に倒れていて、何があったか思い出そうとしていると不意に後ろから名前を呼ばれて振り返る。そこに居たのは、椎名しいなあかり……今現在、意識不明で眠り続ける俺の恋人だった。


「なん、で ? どうして、星……っ」


 思わず駆け寄りそうになる気持ちを、グッと堪え俺は目の前にいるそいつを睨んだ。


「お前、誰 ? 」

『 ! ……ふふ…………あははっ ! ! 』


 俺が問いかけると、星の姿をしたそいつは急に笑い出した。歪んだ顔で、何がそんなに可笑しいのか腹を抱えて蹲る。


「……」

『はぁ、やっぱり。そう簡単には、騙せないか……流石だね。

 零士くん』


 顔を上げこちらに笑顔で話しかけて来るが、その顔はまるでお面の様で一切の感情の読み取れない笑顔だった。変わらず星の姿をしているが、何か別の既視感を覚える。

 声も星だ。口調も……でも、もっと別の誰かが薄っすらと脳裏に浮かぶのだが輪郭がハッキリとしない。

 俺は、こいつに会った事がある……と、思う。でも、詳細を思い出そうとすると途端に記憶に靄がかかる。


「本当に、誰なんだ ? 」

『言っても解らないよ。でも、そうだね。

 せっかくここまで来てくれたし、手掛かりになるかは解らないけど……一個だけ教えてあげる。僕はね…………――――――――――。』

「 え ? 」


 ゆっくりと立ち上がるとそいつは俺の近くまでやって来て、耳元で衝撃的な一言を告げてきた。一瞬、言葉の意味が解らなず固まる。

 いや、正確には解らなかったんじゃない解りたくなかった。だって、そんな筈ないと思いたかったから……そいつが言ったのは、俺にとってはとても聞きなれた単語だったんだ。


「そんな、訳ない。だって俺は……俺たちは、お前なんかっ ! 」

『信じないのは勝手だよ。でも、これからよろしくね。

 今日は、挨拶に来ただけだからさ。



「ま、待って ! 」 

「っ ! 」


 叫んだと同時に上半身を起こした俺は、誰かに思い切りぶつかった。どうやら、その誰かは倒れていた俺を心配して顔を覗き込んでいた様でもろに頭突きしてしまう形になった。

 俺たちは、お互い自分の頭を抱え思わずうずくまる。そして、その誰かが俺に声をかけて来た。


「に、兄さん……大丈、夫 ? 」

「っ~……なん、とかね。壱樹こそ、大丈夫 ? 」

「うん」


 そこで改めて、周りを見渡して俺は自分が開かずの扉の前で倒れていたのだと察する。さっき、確かに扉を開けて中に入った筈なのに……まさか、壱樹が俺を部屋の外に連れ出したのか ? 

 そうも考えたが、あり得ないと思い直す。だって、壱樹はこの部屋に近寄るだけで気分が悪くなるのに中に入るなんて絶対無理だ。

 今も、真っ青な顔をしているし……早く離れないとな。


「壱樹。取り合えず、ここを離れよう」

「ん……」


 立ち上がるのもやっとの状態と言う感じで、壁に寄りかかろうとする壱樹の手を掴む。


「俺の肩に掴まれ。連れてってやるから」

「……ありがと、兄さん」


 そして、歩き出した俺の両肩に壱樹が両手を置いて付いて来る。今じゃ、お互い高身長で無理だけど小さい時はよく倒れた壱樹をおぶってやったけな。


 そう思いながら、ふっと後ろを振り返る。すると、具合悪そうに俯く壱樹の肩越しに開かずの扉が開いているのが見えた。

 扉の隙間から、こちらを覗く誰かと目が合う。そいつの顔は見えないけど、醜悪な笑顔を浮かべてるのはなんとなくわかる。


 でも、俺はそいつに反応はせず再び前を向いた。そして、星の姿をしたやつの放った言葉を思い出す。


『僕はね。……【の幼馴染み】だよ』


 星の声とは全然違う。幼い少女の声だった。

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