第忌譚【照る照る坊主】・戎肆
先の見えない真っ暗な廊下をひたすら進む。壱樹や零士の考える様に、ここは僕らの生きる現世とは違う場所なのだと痛感する。
だって、終わりのない廊下の外に見える景色は夜の闇なんて比じゃない完全な暗闇で一切の光が無い。今夜は満月だったのに、それすらも見えず。
そもそも、どこからが空なのかも解らないほどだ。僕らの居る場所だけが、現世から切り離され首無し法師の作り出した空間に取り込まれたのだとしたら外に出てもどこにも行けないだろう。
それどころか、外の暗闇に飲み込まれ二度と戻って来れなくなりそうで……そんな恐ろしい事を想像してしまい、僕は身震いした。早く、出口を見つけ出し現世に戻らなきゃ。
「綠、大丈夫 ?
顔色……悪いよ ? 少し、休む ? 」
『くぅ~ん……』
僕の様子を心配し、先を歩いていた壱樹とおからが顔を覗き込んでくる。
「あ、だ……大丈夫だよ ! ちょっと、考え事しちゃってただけ。
それに、久哉くんが首無し法師を足止めしてくれてるんだから。急いで出口を探さなきゃ」
「そう……だね。でも、無理は……しないで、よ ? 」
「うん」
『わん ! 』
二人で話していると、おからが吠えた。驚いて、声のした方を見ると行き止まりの壁に向かって吠えているおから。
何かあるのかもと思い、近づいて確認してみる。見た目は普通の壁だが、何か妙だ。
「壱樹くん、これって……」
壁の一点を指差し、僕は壱樹に問いかける。それを見た壱樹は、こくんっと頷いて壁に手を
「
不動明王の真言だ。確か意味は<怒りの顔をされている不動明王様。迷いを打ち砕いて下さい。
障害を取り除いて下さい。願いを叶えて下さい>だった筈。
「……壁が、歪んでる」
「空間の境を……こじ開けたんだ。だけど、お不動さんの力でも……完全には、開けなかった」
「それって、首無し法師の方が不動明王よりも強いって事 ? 」
「一概に……そうとは、言えない。相性の問題も……あるしね。
それより、現世へ……戻るには、この先に行かないと……いけないん、だけど……」
壁を見つめた壱樹が、険しい表情のまま黙ってしまう。
「壱樹くん ? 」
「全員で行くのは、多分……無理」
「え」
「一人が通ったら、また……普通の壁になって、通れなくなると……思う」
「…………」
「それに、ちゃんと……戻って来れる、保証もない……兄さんや、久哉と合流してから……どうするか、決めよう」
「……そうだね」
零士を探して久哉と合流しようと言う話しでまとまり、僕と壱樹は一度壁の前から離れる事になった。でも、誰かに呼ばれた気がして僕は振り返る。
すると、壁の向こうから伸びた白い手に腕を掴まれ何か言葉を発する暇もなくあっという間の出来事だった。異変に気付いた壱樹が振り返り手を伸ばしてくれたが、一歩間に合わず……代わりにおからが飛びついてきて一緒に壁へと引きずり込まれる。
「綠 ! おから ! 」
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