第霊譚【あぶくたった】・壱
幼い頃、父の実家近くにあった古びた神社でよく近所の子たちと遊んでいた。鳥居は
そんな場所に、大人はあえて寄り付こうとはしなかった。でも、だからこそ子供にとってはちょうど 良い遊び場だったんだ。
「あぶくたった にえたった
にえたか どうだか たべてみよう
むしゃむしゃむしゃ まだ にえない
あぶくたった にえたった
にえたか どうだか たべてみよう
むしゃむしゃむしゃ もう にえた」
僕たちは、七人で手を繋ぎ輪になって歌う。その中心に、あの子は居た。
あの子は、僕と同い年くらいの子。
『トントントン』
「
『風の音……トントントン』
「
『お化けだ ! ! 』
「わー ! 」
歌い終わると、僕たち七人は一斉に駆け出す。鬼ごっこの始まりだ。
最初の鬼は、あの子。僕は、神社の裏手に逃げ込むと息を
他の六人も思い思いの場所へと身を隠す。全員の姿が見えなくなると、あの子が叫んだ。
『もーいーかい 』
「もーいー……」
僕が、返事をしようとした……その時。誰かに呼ばれた気がして、咄嗟に振り返った。
そこには、誰も居なかった。でも、微かにだけど間違いなく聞き覚えのある声が僕を呼んでる気がしたんだ。
その瞬間、僕は気が付いた。さっきまで明るかった筈が、いつの間にか辺りが真っ暗で夜になっている事に……それと同時に。
僕は背筋が、ゾクッとするのを感じた。他の六人も異変に気付いたのか、怯えた様子で周りをキョロキョロと見渡している。
状況が理解出来ず、どうして良いかわからない僕たちは暗闇の中で身を寄せ合った。すると、また声が聞こえる。
顔を見合わせた僕たちは、無言で頷くと目を閉じて耳を澄ませた。
「おーい ! どこだ ! ! 」
「どこに居るのー ! ? 」
それは、何人かの大人と僕のよく知る母の声。声の主が誰かわかった瞬間、誰からともなく立ち上がり暗い森の中を七人全員で一心不乱に走って駆け抜けた。
僕は途中で転びそうになったが、それでも足を止めずに必死に走ったんだ。暗闇の先に
「お母さん ! 」
「
走って来た勢いのままに、母の胸へと飛び込んだ。すると、母は僕を力強く抱き締めてくれた。
他の六人も僕と同じ様に、自分たちの親に抱き着いて大声で泣いている。
その時。
『ねぇ、また……ボクと遊んでくれる ? 』
僕の耳にあの子の声が訊こえてきたんだ。僕は、直ぐ振り返ったけど……そこには誰も居なかった。
でも、その声がとても寂しそうで……だから、
「うん。……また、遊ぼうね」
誰も居ない暗闇に向かって小さく返事をしてしまったんだ。その瞬間、冷たい風が僕の頬を撫でた。
それが、全ての始まり。鬼は、ゆっくりと僕たちの背を追い掛けて来る。
終わる事のない鬼ごっこの始まり。
もう、誰も逃げられ無い……――――――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます