第霊譚・零

『あぶくたった 煮えたった

 煮えたか どうだか 食べてみよう

 むしゃむしゃむしゃ まだ 煮えない

 あぶくたった 煮えたった

 煮えたか どうだか 食べてみよう

 むしゃむしゃむしゃ もう 煮えた


 ご飯を食べて お風呂に入って

 お布団敷いて 電気を消して


 お休みなさい』


 どこか、寂し気な歌声が夜の闇に木霊する。名前も知らないは、僕の夢によく出て来るのだが声を聴いたのは初めてだった。

 なのに、どうしてか懐かしさを感じる。昔どこかで聞いた様な気がして、記憶を探ってみるがどうしても思い出せない。


 僕が頭を抱えていると、が俯いたまま歩み寄って来る。


『ずっとね。普通が羨ましかったの。

 ボクには、帰る場所も帰りを待ってくれる人も居なかったから……でも』


 が急に顔を上げ、真っ赤な瞳と目が合う。


『君が見つけてくれて、ボク嬉しかったんだ。だから、君が……ボクのになってよ』


 とても嬉しそうに……それでいて、凄く不気味な笑顔をが向けてきた。瞬間、全身を悪寒が駆け抜ける。


  逃げなきゃ。


 そう思うと同時に、僕は走り出していたんだ。無我夢中で走っていると、いつの間にか暗い森の中だった。

 どこか、見覚えのある風景。父の実家にある山だ。

 それに気が付いた僕は、このまま走れば神社があると言う事を思い出した。鳥居が見えると、勢いのまま境内へと駆け込んだ。

 助かったと、安堵したのも束の間。閉ざされていた社の扉が、風も無いのに独りでにゆっくりと開いたのだ。

 見てはいけない、そう思っているのに目を反らせない。ドクンドクンと激しく脈打つ心臓の音が煩い。

 両の目からは自然と涙が溢れ、身体が小刻みに震える。開いた扉の向こう、社の中に置かれた祭壇。

 そこに置かれているを見た僕は、底知れぬ恐怖と悲しみで心が押し潰されそうになるのを感じる。


 それは……僕の幼馴染み、六人の生首だった。


『泣かないで、大丈夫だよ ? 

だって、に来たらまた皆に会えるんだから……ね ? 』


 これは、夢だ。きっと、悪い夢を見ているだけ……久哉ひさや零士れいじ壱樹いつき寿々すずさち。ありさ。


 僕の大事な幼馴染みたちが、こんな惨い殺され方して良い訳ない。


『約束したよね ? 

 綠くん』


 ショックのあまり、その場に座り込んで身動きの出来ない僕の耳元でが囁く。


『また、って……ねぇ。だから、早く帰って来て ? 』


 僕の意識は、そこで途切れた。まるで、底なし沼に落ちていく様な感覚。

 先ほどまで見ていたのは、やはり悪い夢で僕はまた違う夢へと落とされる。きっと、思い出すまで何度も何度も。



 そして、思い出さなければ…………――――――――――。

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