誘拐事件勃発




「う゛ーあだまいだい」

「おぇ……あだまいでぇ……」

「二人とも飲み過ぎだよ」

「今日はゆっくりしてくださいね」

 ライラはそう言って自室にこもった。

「ライラ、どうしたんだろう?」

「さてな」

 グランの言葉に、コルヴォは首を振った。





「……」

 ライラは手紙を読んでいた。

 宝箱に入っていた手紙だ。


 内容はこうだ。


 常闇の迷宮にはオリジナルが存在する。

 オリジナルは縄で繋がなくとも進めるが、存在するモンスター達の格が現状のものよりも格上である。

 その為、常闇の迷宮を踏破するまで、その迷宮を封じる。


 と、書かれていた。



「……これかなり重要じゃないですか?」

 ライラは眉をひそめて部屋から出るとそのままギルドへ直行した。

「おう、ライラ、ちょうどいいところに」

「常闇の迷宮に似た迷宮が出現したんですよね」

 グレアの言葉を遮って、ライラは言う。

「お前、何で……」

「依頼達成報酬の中の手紙に書かれてたんです、かなり危険な場所になりそうですよ」

「ああ、そうらしい。既に探索の為にブレイブハートのメンバーに声をかけた。それと……」

「何ですか?」

 苦い表情を浮かべるグレアにライラは問いかける。

「恩赦を求めて犯罪を犯した連中も探索のメンバーに入ってやがる、サンダーソードの連中もな」

「!!」

「俺、国王陛下に馬鹿じゃねぇのっていったけど悪くねぇよな」

「悪くありません、手紙のを見る限り死体が増えるだけかと」

「だろうな」

「いい気分ではありませんね」

「で、どうするライラ」

「コルヴォさんに相談してきます」

 ライラは急いで、ギルドを飛び出すと、腕を捕まれた。


「?!?!」

 突然の事に声を失う。

 幽閉されているはずのレザスがそこに居たのだ。

「ああ、ライラ。美しい君。漸く手に入れられた」

「離してください……離して」

「おい、一体何が……テメェ?!」

 グレアがレザスの姿を見ると目を丸くした。





「では、失礼」

 レザスはライラと共に空間転移魔術で姿を消した。

「くそ! 厄介な事になった!」

「ライラが突然出て行ったのだが、どこに居るか知らないか?」

 コルヴォが慌てた様にやって来たのを見てグレアはコルヴォを殴りそうになったがぐっと堪えた。

「レザスの野郎に誘拐された」

「何だと?!」

「あの野郎、幽閉された場所から逃げるだけの魔術をもってやがった」

「……」

「ん? なんだ、どうした」

 リヴンがやって来て話に混じってきた。

「ライラがストーカー野郎のレザスにさらわれたんです」

「ライラがだと?! どこでだ?!」

「そこで……」

 グレアが指さした場所をリヴンは念入りに調べると、立ち上がった。

「野郎、光翼の塔へと逃げやがった!!」

「光翼の塔?」

「ああ、塔を攻略できた恋人同士は円満で居られるって奴だ」

「……どうして?」

「そこの塔の一番上にいる奴が祝福するんだよ」

「今すぐ向かおう」

「俺も行く、いや、俺が案内する」

 リヴンはそう言い出した。

「難易度が高いわけじゃないが、案内人が居ないと苦戦する程度ではある。ライラが居ないんだ、俺が行こう」

「頼めますか」

「ああ」

「私は他のパーティを呼んでくる、準備の方を」

「おうよ!」

 リヴンがにぃっと笑って返すと、コルヴォは急いで屋敷へと戻った。



「全員いるか!!」

「いますよー」

「いるけどどうしたの?」

「そうだぜ、ん? ライラは」

「誘拐された、光翼の塔に連れて行かれた」

「はぁー?!」

「誰だよそんな事したのは?!」

「レザスだそうだ」

「王宮ちゃんと見張れー!」

 レイナは叫んだ。

「今すぐ出発するぞ、準備を」

「「「了解!」」」

 全員が猛スピードで、支度をし、ギルドへ向かう。

「準備はできたか?!」

「勿論だ」

「当然!」

「たりめぇよ!」

「うん!」

「じゃあ、光翼の塔へ飛ぶぞ、こっちに来い」

 リヴンの周囲に集まると、リヴンは羽を取り出した。

「天空の羽よ、光翼の塔へ!」

 リヴンがそう叫ぶと、全員光に包まれ、その場から光は飛んでいった。





「頼んだぞ、俺の姪っ子をあんな奴の嫁さんにするなよ……!」





「はーなーしーて!!」

「これから祝福を受けるというのに、何故嫌がるのです!?」

 ライラはレザスからありったけの力で逃げようとしていた。

「貴方と結婚なんて死んでも嫌ー!」

 ライラはそう叫んで塔の下の階へと逃げてしまった。

「いくら何でも道具も持たずに塔を降りるのは無理なはず……待ちましょう」

 レザスはにやりと笑った。





「ここが光翼の塔?」

「塔の上が光っているな」

「光翼の祝福者の光だ。急ぐぞ、多分ライラは逃げ出してると思うが手持ちがない状態だと危険だ」

「確かに」

「案内するから、ついてこいよ」

 リヴンが塔の中に足を踏み入れる。

「……あの野郎、塔の中身を変えやがったな?」

 リヴンが忌々しげに呟く。

「どういうこ──」

「こういうことだ」

 ミスリルゴーレムが、ルナティックとリヴンの行く手を阻んでいた。

「ミスリルゴーレム!」

「全く、厄介な事しやがる、後で戻させないとな」

「だ、ダンジョンの中身を変えるなんてできるんですか?」

「あー知られてないが頂上に居る奴なら塔系のダンジョンの難易度を変更できるぞ」

「つまり今の難易度は──」

「最難だ」

「くそったれが!!」

「だが、俺を甘く見るなよ。魔術師の坊ちゃんが、仮にも俺は彼奴の師匠なんだからな!」

 リヴンは球体を投げてミスリルゴーレムを褐色色に染め上げた。

「未だ、魔術でも、何でもいいから切り裂け!」

「わかった」

「了解!」

「よっしゃあ!」

「補助は任せて」

 コルヴォとレイナは魔術と精霊術の風で切り裂き、グレイは爪で切り裂いた。

「うっわもろくなってんな!」

「そういう液体だ! 一時的だがな」

 リヴンは転がっているミスリルゴーレムの骸を無視して先に進む。

「おい、ライラなら持ち帰るけど……」

「後で持ち帰るさ、今はライラの身の安全が最優先だ」

 リヴンがずかずか進んでいくのにコルヴォ達もついていく。


──ライラ、無事でいてくれ──


 皆の願いはただそれだけだった──






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