王宮からの依頼




「──コルヴォ、分かってるでしょうけど。レザスが居るときは必ずライラちゃんと恋人の振りするのよ」

「分かっている」

「ライラちゃんも分かってる」

「恋人の振りというのは難しいですがなんとかやってみます!!」

 ルナティック、全員正装を身に纏い、グレアの元へと向かった。

「よし、準備はできたか。レザスの野郎がしてきたことが公になると不味いからということで今後のレザスの対応協議と言う名のお前らお披露目会だ」

「どういうことです?」

「今後、王室からの仕事が来るかもしれないと言うことだ」

「うへぇ、マジかよ」

 グレイはあからさまに嫌そうな顔をした。

「グレイその顔ださないように、私達は只の冒険者を通していけばいいのよ」

「わかったよ」

 グレイは着慣れぬ正装の袖をつまみながらぼやいた。





「王宮魔術師のレザスが誠に申し訳ない事を……」

「余罪は?」

「……ありました……王宮魔術師の恥です、あれほど能力はあるのに……」

「どれほど才能があろうと、性格がアレでは意味がない」

 王宮のエラい人達が、グレアに頭を下げている。


「何でギルド長にあんなに頭さげてるんだろ?」

 グランが首をかしげていると、レイナがそっと耳打ちした。

「グレアさんは国の英雄よ、たった一人で国にやってきたドラゴンとかのモンスターの群れを倒したの」

「えぇ?!」

「しっ、声が大きい」

 グランの驚愕の声をいさめてレイナは続ける。

「そのほかにも色々功績がある、国は爵位をと行ったけど、彼はギルドの長になることを選んだの、爵位なんてもらっても嬉しくないって言ってたわね」

「すごい……」

「ま、本人が冒険者を今は隠居してるけど、その気になればとんでもないことになってるわよ」


「──では、レザスは今後、幽閉塔に監禁、外に出る機会を与えない、と」

「はい、被害がここまで大きくなってしまったのですからそれしか……」

「ならそうしろ、奴がライラにつきまとうのを再開したら困るんでな」

「はい、かしこまりました。後、陛下よりお願いが」

「なんだ?」

「ルナティックのメンバーに常闇の迷宮を調べて欲しいと」

「はぁ?」


「お断りします!」

 ライラが真っ先に拒否の言葉を紡いだ。

「ライラ」

「……常闇の迷宮は師匠がいなくなった場所です、ですから私達にはまだ早い──」

「ライラ、そんな事はない」

 グレアが否定する。

「お前の腕前は師匠を遙かに超えている、だから王様も依頼してきたんだ」

「でも……」

 ライラはちらりと皆を見る。

「それにルナティックは、うちの冒険者達の中では一級品だ。だが、受けるかどうかはコルヴォ、お前が決めろ」

「私は受けたいと思う」

「コルヴォさん、そんな無茶な……!」

「今までの冒険で、君の案内人としての才能はわかりきっている、それに師匠がいなくなった場所なら師を探す──仮に亡骸があっても見つける事ができるのではないか?」

「……」

「ちょっとコルヴォ、言い方があるんじゃない?!」

「──やります、やらせて下さい」

「ライラ、いいのか?」

「はい、師匠がどうなったのか、この目で確かめたいのです」

「……よし分かった、ルナティックは受けるそうだ」

「本当ですか?! 良かったぁ……」

「まだ踏破されてない迷宮なので、必要なものがあるのなら申しつけ下さい」

「わかりました」


 ライラはコルヴォ達と話をして、何が必要か書き出し、それを渡した。


「これを用意して下さい」

「これだけで良いのですか?」

「はい」

「分かりました、すぐ手配します」


 手配の準備にかかっている最中コルヴォは気配を感知してライラの側による。

 そして彼女を抱きしめる。

「コルヴォさん?」

「静かに、レザスがいる。まだ幽閉してないようだ」

 どさっと音がしたと同時にずるずると引きずられる音が聞こえた。

「……もういいな」

 コルヴォはライラを抱きしめるのをやめた。

「居なくなりました?」

「ああ」

「これで恋人ごっこから解消……されるといいわね」

「そうだな」

「はい」

 どこか遠い目をするレイナにコルヴォとライラは首をかしげた。





 出発の日──

「ライラ、王様にも言っておいたが、何かあったらすぐ戻れ、いいな」

「はい!」

「お前達もだぞ」

「はい」

「勿論よ」

「分かってるよ」

「は、はい!」

「馬車で入り口まで案内してくれるみたいだ、そこから先は、頼んだぞ」

「はい!!」

 ルナティックのメンバーは馬車に乗り込む。

「では、行ってきます!」

「おう、行ってこい!」

 ギルド長に見送られ、ルナティックメンバーは馬車に揺られていた。


 途中途中下車をし、休憩を挟みながら付いた場所は──


 闇が渦巻いていた。

 闇で覆われていた。



「これが、常闇の迷宮」

「真っ黒で何も見えないや……」

「おい、今更だけど大丈夫なのか?」

「大丈夫だと信じましょう、ライラちゃん?」

「……」

「ちょ?! なに首突っ込んでるの?!」

 レイナがそう叫ぶとライラは闇の中にツッコんでいた顔を引っ込ませた。

「これは、前回のあやかしの森同様縄で繋いで行動しましょう」

「あやかしの森と似ているのか?」

「いいえ、入った瞬間何かで繋いでないとバラバラの場所に出てしまうようです。手を繋ぐか縄で繋ぐか」

「じゃあ、縄で繋ぎつつ、手を繋いで入りましょう」

「わかった」

 レイナの案にコルヴォが頷く。


 コルヴォはライラの隣に来て手を握った。

「コルヴォさん?」

「魔術で誰かがこちらを見ている」

「え?」

「おそらくレザスだ、幽閉しても魔術を封じていないようだな」

「……」

「だが、迷宮に入ればこちらのものだ行こう」

「はい」

 ルナティックは足並みそろえて、闇の中へと入っていった。





「うわ、黒、黒、黒!!」

「かろうじて地面が違うわね」

 驚くグランと冷静に判断するレイナ。

「ライラちゃん、案内頼める」

「はい!」

 ライラはいつもより慎重に歩き出した。

 それに従うように皆も歩き出す。






 常闇の迷宮。

 未だ踏破されたことの迷宮。

 ライラを待つのは一体何か──







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