休日につき




 拠点にライラが戻ると、グランが何かを弄っていた。

「グランさん、何をしているんですか?」

「わわ!!」

 グランの手の中にはオルゴールがあった。

「わぁ、綺麗なオルゴール、どうしたんですか?」

「ああ、うん。町の子どもが誕生日に貰ったオルゴールが壊れたから直して欲しいって。オルゴール直すのは難しいし、専門店に頼むと子どものお小遣いじゃちょっと厳しいから僕が直してるんだ」

「直したんですか?」

「うん」

 グランがオルゴールを鳴らすと綺麗な音楽が流れてきた。

「すごい! グランさんすごい!」

「ホビットだからね! ……まぁ、その所為で僕は前のパーティから追放されちゃったんだけど」

「え?」

「ホビットって足が速くて手先も器用だからシーフに向いてるんだ。でも僕はシーフは嫌だからヒーラーについてたんだ……仲間が増えていくうちにシーフじゃないホビットはいらないって言われてさ……」

「酷い!」

「それで途方に暮れてた所をヒーラーを欲しがっていたコルヴォさん達に仲間にしてもらったんだ」

 グランは懐かしそうに言った。

「シーフじゃなくていいの? って聞いたら構わないって。コルヴォさんとレイナさんがシーフの役割を交互にしてるから……」

「あのお二人ってそういう仲なんですか?」

 思わずたずねたライラの言葉に、グランは吹き出して笑った。

「あはは、そう思うよね! でも、レイナさんと恋仲なのはグレイなんだよ。コルヴォさんは腐れ縁らしいよ」

「あー……エルフとダンピールは両方とも寿命が長いですからね……」

「そうそう」

 グランはパタンとオルゴールを閉じた。

「じゃあ、僕はこれを持って行くから」

「行ってらっしゃい、グランさん」

「うん!」



 グランが出掛け静まり返った拠点のリビングで、ライラはソファに腰掛けた。

「……」

「ん、帰ってきてたのか」

「コルヴォさん! 日中ですけど……大丈夫ですか?」

 戻ってきたコルヴォにライラは駆け寄った。

「君のブレスレットのおかげだ」

「良かった……」

 ライラは胸をなで下ろした。

「あのグランさんから聞いたんですけど……グランさん、前のパーティから追放されたって……」

「ん、ああ。足の速さも、手先の器用さも関係ないヒーラーだからな。シーフにならないグランが煩わしかったんだろう」

「酷い!!」

「グランのヒーラーの腕を見誤ったのが運の尽きだったな」

「え?」

「グランはヒーラーの中でも優秀な部類だ、別のヒーラーとシーフを招いたそのパーティは案内人以外重傷でダンジョンから戻ってきて、二度と冒険者として働けなくなったそうだ」

「ヒーラーと言っても、治癒から補助なんでもこなすんだグランは。並のヒーラーじゃ同じ仕事をするのは無理だろう」

「……」

「君と同じだ、ライラ。君は何でもできる案内人だ、連中はそれに気づかなかった」

 コルヴォの言葉にライラは無言になる。

「だから、頼りにしているよ。ライラ。私達の案内人」

「……はい!」

 コルヴォの言葉にライラはにぱっと笑った。

 それを見てコルヴォも微笑みを浮かべた。


 その微笑みに、ライラは見とれた。


 花が恥じらってしぼんでしまうような美しい微笑みに目を奪われたのだ。

 顔が熱くなり、ライラは失礼だと思ってしまったが、慌てて自室へと戻った。





「ライラちゃん、部屋で顔を真っ赤にしてたけど何したのコルヴォ?」

「……いや、微笑ましいと思って笑みを浮かべてしまった……」

 コルヴォの部屋でレイナが尋問を始めると、コルヴォはそう答えた。

「あーもー、この美形は。そんなんだから女が寄ってきてトラブルが起きてたのよ」

「すまん……」

 レイナの言葉にコルヴォは申し訳なさそうに答えた。

「ライラちゃんはまだ花も恥じらう乙女なんだからそこんところ注意! 今のところは、ライラちゃん『綺麗すぎて私なんかが見るのは申し訳ない』って感じだからいいけどね?!」

「あ、ああ……」

「自分の美形っぷり少しは自覚しなさいよ本当……」

「何かすまん……」

「本当にね!」





「──という訳で、ライラちゃんが本調子じゃないので休みは延長! その間各自やることは済ませておくこと、いい?」

「何やってんだよリーダー」

 グレイが呆れて言う。

「本当すまん」

「美形ってこんな弊害あるんだ……」

「あるのよ」

 あっけにとられているグランにレイナが呆れた様に言った。

「コルヴォは次のダンジョンか依頼をギルドに行って選出と申請してきて、グランはいつも通り武器の手入れをお願い、グレイはコルヴォの護衛ついでに買い出しお願いね」

「買い出し?」

「そうよ、今日はご飯の買い出し日。これらを買ってきてちょうだいね」

「おお、分かった」

「私はライラちゃんのケアしなきゃならないから、んじゃ解散!」

 レイナはそう言ってライラの部屋へと向かった。



「ライラちゃん~? ちょっといいかしら~?」

 レイナはライラの部屋の扉をこんこんこんと叩いた。

「は、はい……何でしょう?」

「入っていいかしら?」

「は、はい」

 鍵が開けられる音がしたので、レイナはライラの部屋へと入った。

 ライラは床に座って、何かの道具を手入れしていた。

 顔はまだ少し赤い。

「ごめんねーライラちゃん、うちの無自覚美形野郎がアレで~」

「い、いえ!! そんなことありません!! ……恥ずかしくてお仕事できなくなった私、まだまだ未熟です」

「いやいや、そんな事ないわよ」

「だって、案内人はどんな時でも冷静で平常心じゃないといけないんです。混乱したり、魅了されたりしたら仲間を危険に晒しますから……」

「あ~~、でも彼奴の微笑み見て平常心保った案内人とか私見たことないわよ」

 ライラの凹んでいる理由を察したが、レイナはすかさずフォローをいれた。

「そ、そうなんですか?」 

「男でも、女でもそう。おかげで修羅場を私が何度対処してきたことか!!」

 レイナは肩をすくめながら言う。

「あの馬鹿、自分の美形っぷり理解してないからね。まぁ、ええ格好しい奴よりはまだいいかもだけど……」

 レイナはライラの頭をぽんと撫でた。

「奴の顔に関しては馴れしかないからね、凹む必要はないわよ」

「は、はい……」

「まぁ、ダンピールは美形が多いけど、彼奴ほどの美形は早々いないからね」

「そ、そんなに美形なんですか? た、確かに正面から見てるとちょっとどきどきしちゃって、見られなくなっちゃいそうですけど……」

「両親がとんでもない美形と美女だったからね……」

「おお……いいとこ取り……」

「そういうこと」

 レイナは空いている椅子に腰をかけ、肘をつきながら言った。

「両親が冒険者だったから、彼奴は冒険者になった。でも、見目でのいざこざが原因で、私も冒険者になって彼奴のトラブルを防ぐことにしたの」

「……最初はレイナさんと、コルヴォさんのお二人?」

「そ、エルフとダンピールの組み合わせが珍しくて仲間になろうとする奴らが大勢いた──中で私に一目惚れしたからパーティいれてくれって言い出したのがグレイよ」

「すごい!」

「エルフだけどって断ってもダメ、長寿だからっていってもダメ、で、根負けして付き合うのと仲間になるのを了承したってわけ」

「その後、ヒーラーでグランさんが入ってきたんですね」

「その通り、ある意味ぐだぐだよこのパーティは」

「そんなこと無いです!」

 ため息をつくレイナをライラは否定した。

「だって、私の事をこんなに信頼してくれるのお師匠様とギルドの方々以外で初めて見ました!」

「ちょっと待って、ライラちゃん、貴方どんな扱い受けてたの?」

「それは……」

「いや、話したくないなら──」

「いいえ、話します」

 ライラは意を決したように話を始めた。





「──最悪ね」

 レイナは頭痛で額を抑え、息を吐いた。


 前の「サンダーソード」は案内をしろだけで、フロアボスやそういうのとの戦いの助言は全く聞かず、フロアボスがいるとなじってきた。

 なので、休みの日にダンジョン巡りと情報収集をして、ギルドの方からフロアボスを回避できる、フロアボスがいない系等のダンジョンや依頼だけを見せるように頼んだという。


「実力ない訳よ……数踏んでても」

「だから、レイナさんやコルヴォさん達がすごい有り難くて……」

「ライラちゃん、苦労したのね……」


 レイナはほろりと涙を流した。

 以前のライラの待遇の悪さに。






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