案内人とは




「むー……」

 ライラは部屋で器具の調整を行っていた。

「食事の事を考えてエルフの専用の道具も持ってて良かったな。あの時仲間に売られそうだったの死守してよかった」

「ラーイラちゃん!」

「うひゃぁ!」

「脅かしちゃった? ごめんなさいね。……道具の手入れ中?」

「はい、次のダンジョンに行く時に使うかもしれないので」

「偉いわね、本当偉い!」

 レイナはライラを抱きしめた。

「ライラちゃん、おねーさんは貴方の事を守るわ、約束する」

「あ、有り難うございます」

 レイナにぎゅっと抱きしめられ、ライラは少し驚いたが、嬉しそうに笑った。



「さて、次のダンジョンだが『月の塔』と対の『太陽の塔』へと行ってみようと思う」

 コルヴォは全員にそう言った。

「「「了解!」」」

「次も頼んだぞ、ライラ」

「はい!」

 ライラは荷物を背負って頷いた。





「このの塔は月の塔とは真逆で上に上り、そしてフロアボスを倒して進む必要があります」

 太陽の塔のダンジョンに入ったライラはパーティにそう伝えた。

「ただ、正しい手順で倒さないとフロアボスも強化されていくので、正しい手順で倒しましょう!」

「ライラー僕質問なんだけど」

「はい、グランさん、なんでしょう」

「正しい手順って、何?」

 グランがそう聞くとグレイがグランの頭に拳骨を落とした。

「いっで!」

「それは今説明すんだろ、黙ってろ」

「グレイさん、グランさんを怒らないで」

「わーったよ」

 グレイが肩をすくめると、ライラは軽く咳をした。

「ここのフロアボスは、フロアの中央から見て右端にいます。そのボスを左端の水辺で倒す、それが正しい手順です」

「つまりフロアボスに移動して貰う必要があるのか」

「はい、コルヴォさん。その通りです」

 ライラはにっこり笑って言った。

「幸いこのボスは怒りっぽいので石を投げつけるなりして怒らせれば、こっちについてきます、走らなきゃならないので足が速い方が誘導をお願いします。無理そうなら私がやりますので」

「いや、俺がやる。足の速さなら任せとけ」

「いい、グレイ左端よ? 分かってる?」

「……ちょっと心配なので私もついていきます」

「ああ、頼む」

「ちっとは俺を信用しろよ!」

 グレイが大げさに言ったが、ライラ以外全員は首を振って否定した。





 左端の水辺に他のメンバーを待機させ、右端にやって来たライラとグレイ。

「彼奴か?」

「はい、あの大っきい亀みたいなエネミーです。怒らせたら即逃げますよ、めっちゃ早いですから」

「おう」

 グレイは石を手に持ち、フロアボスに姿が見える場所に立つと、石を顔面に投げつけた。


 ガツ!!


 石が当たり、フロアボスの顔が真っ赤になり、周囲を見渡してグレイとライラの存在を認識すると──


「うお、はぇえ!?」

「グレイさん、こっちです、早く!!」

「お、おう!!」


 ライラが先導しグレイと一緒に他のメンバーが待機している地区に駆けて行く。


「グレイさんは左に、私は右に!」

「分かった!」


 水辺の地区に到着すると、他のメンバーの姿を視認する。


 ライラとグレイは左右に分かれて移動し、フロアボスはどちらに行こうか悩んで動きを止めた。


「今です!!」



「舞え疾雷の乙女サンダーガール!!」

「切り裂け疾雷の剣サンダーブレイド

 水辺に浸かっているフロアボスは、水の中で雷の攻撃を食らい、感電して倒れ込んだ。


「……よし、成功です!」

「よっしゃあ!」

「上手くいったな」

「ええ、大成功♪」

「おいら出番無しー」

「なんなら、次似たようなフロアボスが出た時、お前がやるかライト?」

「嫌だよ! 僕足速いけど嫌だよ!」

「さて、ではフロアボスを解体します!」

「「「「え」」」」

 ライラの言葉に全員から変な声が出た。

「このボス、素材が高値で取引されているんですよ、これからのことも考えてとっておこうかなぁと」

「いや、ライラ、無理しなくていいんだぞ?」

「そうよ、ライラ。無理しないで」

「いいえ、無理してません!! 素材は大事、ですから!!」

「「「……」」」

「……分かった、ではその間少し休ませてもらおう」

「はい!」





 コルヴォは他の三人を呼び、こそこそと話し合いを始めた。

「素材採取の依頼はあるが、ダンジョンでもやるのか?」

 グレイがコルヴォにたずねた。

「いや、わりとやるらしい。案内人が率先して解体するし、バラした素材は案内人必需品の魔法袋に入れて保管するらしい」

「……ライラちゃん、硬そうな甲羅、素手で砕いて袋詰めしてるわよ、あとナイフでバラしてるし……」

「……」

 実際に見た四人は、ライラの手際の良さと、能力に感心しきりだった。





「お待たせしました! 次の階層に行きましょう!」

「ああ、ところでどこにある?」

「中央です、上と下の階段が出ているはずですが、ここは最初に言ったとおり上に行きます」

「分かった、行くぞ」

「「「了解!!」」」





「ここのフロアボスはギミックを利用して倒す必要があって、そのギミックは──」


「ここのフロアボスは魔法を使わずに倒す必要があるんです、ちょっとコツがあって──」


「ここのフロアボスは──」


 ライラの指示に従いながら、コルヴォ達は太陽の塔のダンジョンを上へ、上へと登っていった。


 そして10階上ると、そこは開けた空間になっており明るかった。

「皆さん、今すぐここから離れてください!」

 ライラの言葉に四人は反応して離れると、巨大な輝く鳥が現れた。

「煌鳥アスカ?!」

「さすがに分が悪い……」

「大丈夫です!」

 ライラはそう言って、球体を投げつけると、それは破裂し、煌鳥アスカは真っ黒になり、墜落した。


「今です!!」


「よし、やるぞ!!」

「補助魔法はまっかせてー!」

「頼んだぜ!」





「いやぁ、ダンピールにとって苦手な部類のボスをあんなに簡単に攻略できるなんて思わなかったわ」

「俺もだ、ライラ、アレは何なんだ?」

「炭汁爆弾です。アスカは炭汁に弱いんですよ」

「……ねぇ、もしかしてライラ。モンスターの弱点にめっちゃ詳しい?」

「案内人ですから!」

 えへんと胸を張るライラを、四人は顔を見合わせて頷き頭をわしゃわしゃとなで始めた。


「わー!? なんなんですかー!?」

「こんなすごい子を無下に扱う輩がいたことが信じられないわ!」

「ライラすごいよ!」

「すげぇぞ、お前は!」

「ああ、本当にすごいな」

「え、えへへー……」


 ライラは少し嬉しそうに笑ってから、目からぽろりと涙がこぼれた。

「あ、あれ?」


 ぽろり、ぽろり


 拭えば拭うほど涙が止まらずライラは困惑する。


 ライラはこんなに認めて貰ったことが無かったからだ、前のパーティに。

 案内人なら当たり前なんだろうと、褒めてくれたことが無かった。


「ライラちゃん……」

 レイナがライラを抱きしめる。

「ライラちゃんはすごく頑張ってるわよ、私が、ううん私達が保証するわ」

「うぇ、えっ、うわあああああん!」

 宝物が目の前にあるのに、皆そちらに行かず、ライラの側に居続けた。

 泣き止むまで──






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