悪役令嬢は今日も華麗に暗躍する 追放後も推しのために悪党として支援します!
道草家守
一章
1 推しの晴れ舞台!
人生を捧げたソシャゲがあった。
そこで、全財産をかけても惜しくない推したちに出会った。
何度も何度も元気をもらい、頻繁にガチ泣きして、報酬のために死ぬ気でイベントを走って一喜一憂した。
彼らのおかげで私の人生は鮮やかに色づいた。
推しのためなら何でもできる。
そう、推しを輝かせるためであれば……
悪役だって、完璧に演じて見せよう!
*
「エルディア・ユクレール! 貴様の爵位を剥奪する!」
強く糾弾する声に、私はぞくぞくと震えた。
恐怖からではない。歓喜からだ。
ゆっくりと振り返れば、そこには憎々しげに私を見つめるこの国の第二王子、ウィリアム・フェデリーがいる。
うおおおお! こっちに来てリアル金髪を見慣れていても群を抜いてきれいだよなあ! 青の瞳もどこか浮き世離れしているし、20代半ばでこのフェデリー国の王子、しかも軍部に所属してるばりっばりの戦闘キャラなんだから人気が出ない訳がないよな!
そう、今この園遊会は私、エルディア・ユクレールの罪を暴く糾弾の場となっていた。
国の要職はだいたい集まり、聖女と主人公となる勇者くんをはじめ、彼らが仲間にする主要キャラクターまで勢揃い。私が人生を捧げたゲームで、序盤では一番の大舞台である。
ウィリアムがぐっと私をにらみつけながら続けた。
「この国の貴族であるにも関わらず、王家をないがしろにし、国を脅かす数々の悪行は目に余る。何より国家の宝である聖女を粗略に扱った罪は重い」
「ウィリアム様っ! これはなにかの間違いなんです! エルディア様がこのようなことをするなんて何か理由が……」
フェデリー国で瘴気の浄化をする役割を担った聖女、ユリアが割って入った。しかしウィリアムは労るように微笑みながらも断固として私からかばうように退けた。
「ユリア、もうこのような女をかばわなくて良いのだ。後は私に任せなさい」
ああああユリアちゃん私の推し! 淡い水色がかった銀色の髪にエメラルドグリーンの瞳も生き生きとしていてぎゅってしてあげたくなるようなはかなげな容姿なのに芯は強くて、怖くても世界を、大事な人を救うためだと旅に出る最高の天使! しかも16歳!
ちょっと鈍感な所もあって、毎度周囲のアプローチをスルーするところまで推せる要素しかない!
そんなユリアちゃんに惚れるしかないよね守ってあげたくなるよねウィリアムその気持ちわかる!
私だってユリアちゃんいじめるやつは万死だと思う。
だがすまんな、私がやらないとこの国滅亡しちゃうから!
ふっ私の擬態は完璧だ、たとえ脳内で顔面崩壊していようと表はアルカイックスマイルを保っている。
とりあえず、様式美としてしらを切ってみるか。
こてり、と私は不思議そうに小首をかしげてみせた。
だって今の私は17歳、豊かな栗色の髪に緑眼のすごく色気のある美女だもの。ぜってー似合う。鏡だけ見れば最高に慈愛に満ちたお姉様顔だもん。
中身がアラサー喪女なんて言わぬが花だ。知ってるやつはこの場にいねえ。
「あら、わたくしはただ貴族として、我が王のため、民のためを思って懸命に働いただけですわ。聖女候補として身を粉にもいたしましたし、国母としての振る舞いも身につけましたのに……いらないと、そうおっしゃいますのね?」
「しらじらしい。私はその裏で貴様が何をしていたか知っているぞ。そもそもこの件はすでに陛下にも報告され貴様との婚約はすでに破棄されている。あまたの人間をたぶらかした
ウィリアムは憎々しげに吐き捨てた。
うおおおお! いただきました悪徳姫! エルディアの二つ名!!!
だから私は、とびっきり優雅に扇子を広げて微笑んでみせた。
この数年、全力で培ったお貴族(笑)スタイルはさぞや悪辣に、傲慢に見えることだろう。
「あら、皆様とはただ楽しんだだけですわ。甘いこの世の悦びを。それのなにがいけないの?」
ふっ言ってやったぞ。悪徳姫の決めゼリフ!
「エルディア様、なんで、そんな……」
ううー……その勇者くんの絶望顔が心に痛いと同時においしさでときめきがとまらない!
ごめんねえ、めっちゃ君に優しくしたしその親切は嘘じゃないし、この推したい気持ちは本物だけど。話の都合上、それだけじゃだめなのだよ。
「あら、あなた、生き延びましたのね。存外丈夫なのは、さすが勇者というところかしら?」
「リヒトを陥れたのもあんただろうがふざけんな!」
ウィリアムの隣に控えていた騎士アンソンくんが耐えきれなかったように怒鳴った。
ああそうよね!君も推し! 熱血漢で大事なもののためにまっすぐ突き進める太陽属性! 君の貫通力と防御力はゲームでお世話になりました!
「お前の身勝手な振る舞いのせいで、どれだけの人間が不幸になったか! お前さえいなければ幸せだった人がいたか!」
「あら、選んだのは彼ら、彼女らですわ。それについてわたくしに言われても困りますの」
「このっ……」
「アンソンっ!」
勇者リヒトくんが止めようとするが間に合わない。
その前にアンソンが剣を抜き、必殺技を私へ繰り出してきた。
ひえええ、やっぱゲームのエフェクトそのままに繰り出されると怖いよ!
でも、悪徳姫たる私も一時期は聖女候補になったほど、魔力と魔法に長けている。
だからただ扇子を閉じるだけで防ぐのが、ゲームの展開なのだが……。
「エルディア様!」
そう声を上げてかばってきたのは、我が従者殿だ。
黒い髪に暗い紫の瞳の彼は、私の心臓を狙ってきたそれを身を挺して盾になる。
気づいたアンソンが寸前で剣を止めたものの、剣先は彼の脇腹を割いた。
脇腹に血をにじませながらも退かない彼に、アンソンは理解できないとばかりに声を荒げる。
「どうしてそんなやつをかばうんだ! そいつがやってきた所行を知らねえのかよ!」
「……エルディア様には、ご恩がございますので」
とくにこれと言った表情を浮かべず、私の従者アルバートは淡々と答えたのだが、当の私と言えば顔をゆがめたいのをこらえていた。
おかしいどうしてこうなった。と思いつつも、彼は私をかばうように立つばかり。
ならば、貴族の娘エルディアとしては大きくため息をついて、こう言うしかない。
「わたくしの従者を傷つけるなんて、なんて野蛮なのでしょう。この国の騎士の質はいつから落ちたのです?」
「……っ! ……!!」
アンソンは怒りに顔を真っ赤にしながらも、剣をあげようとしなかった。
うむ、すまんなほんと。
そしてさらにウィリアムに向いて見せる。
「仮に、あなたが先ほどおっしゃった恐ろしい事にわたくしがかかわっていたとして。爵位を剥奪した程度で、わたくしを止められまして?」
ぐっとウィリアムが言葉を飲む。うんうんそうだよね。だってフェデリー中を網羅していたんだもん。しかも、今回は尻尾を出したけれど、その他は全部、エルディアがそこに居たという事実しかないのだ。
被害者にはなるし、罪にふけってたというのは貴族として醜聞ではあるものの。弱い。うんうん、そこんところうちの従者が手抜かりするわけないもん。
ふわりとドレスを翻した私は、ウィリアムに微笑んで見せた。
「ウィリアム様、従者を傷つけられて気分が優れませんので、先にお暇させていただきますわ」
「……ひとまず自宅で謹慎せよ。余罪についての処分は追って伝える」
「悪徳姫! 逃げられると思うなよ!」
悔しげなアンソンの捨て台詞に、私はひときわ優雅にカーテシーを決めてやった。
前世アラサー喪女だった私は現在、死ぬほど大好きだったゲームの世界で、序盤の悪役、悪徳姫を演じてます!
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