第3話 ありがとう、かあちゃん

そもそも、軽自動車に大金を使う気などない、最近の軽はよく走るとかいうけれど、最近の軽はでかいのだ。そして重いのだ。昔のミカン箱にタイヤが付いているような軽よりはおそらく走らないに違いない。


なけなしの印税の残り、40万円くらいで買えるやつを適当に買おうそうしよう。そう思ったおじさんが目を付けたのは、三菱の「i」であった。


電気自動車バージョンが一時有名になっていたけれども、あれのガソリン車バージョン。不人気車種は安いの法則により安いっちゃ安いのだ。まあ動けばよい、15年落ちくらいで動くやつにしよう。なにより保険が継続できればよいのだ。


よし、これでいこう。だが事態はここで急転直下、驚天動地、大山鳴動しないけど札束一つとなる。


「軽四を買うわ、動けば何でもいいやつ」


近所の、というより隣の実家で一言呟いたおじさんに、年老いたかあちゃんの一言がこれである。


「そういうのは、危ないからいくらか出してあげるから、新しい軽をかうんや」


大笑いである、齢50に届こうというオッサン捕まえていう言葉ではない。そして、登録済み新車とかいうのがたくさん載っているチラシを、かあちゃんが差し出してきたのはその時であった。


「登録済み未走行車」古い言葉でいうと「新古車」だ。

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