第17話 ナギトールのダンジョン(1)
翌朝、朝食を食べた後、オレ達はダンジョンに向かった。この街のダンジョンはまだ踏破されていない。最高到達が37階層だ。何階層まであるかすらわかっていない。それに、不定期で中の地形や魔物が変化するらしい。そのため、難易度が高いダンジョンに指定されている。
「ダンジョンに行くのに買い出しはしなくていいのかにゃ?」
「ああ、それは心配ないさ。」
前日、ギルドの帰りにローザの武器も買った。ローザは弓の経験があるらしく弓矢を選んだ。
「ケン。ローザ。いよいよにゃ。お宝、お宝。」
「ミレイ姉の目がお金になってる~!」
同じ部屋に寝たのが良かったのか、ローザが少し打ち解けてきた。
「結構人が多いんだな。」
「みんなお宝目当てにゃ!」
ダンジョンの入り口にはすでに大勢の冒険者達がいた。順番待ちだ。そして、いよいよオレ達の番が来た。中に入ると階段があり、それを下っていく。
「ケン兄。ダンジョンの中って意外と明るいね。」
「そうだな。ただ、罠なんかがあるから注意しないとな。」
「うん。」
確かに意外と明るい。1階層を探したが、冒険者達がたくさんいて宝箱もないし、魔物もいなかった。2階層、3階層と進むが同様だ。そして、6階層までくるとさすがに冒険者の数が減ってきた。当然、魔物とも遭遇する。
「ミレイ。前からゴブリンが5体来るぞ! ローザも弓矢の準備をして。」
「うん。」
「わかったにゃ。」
さすがに5体のゴブリンでは相手にならない。あっという間に倒してしまった。ゴブリンが光の粒子になって消えた後、光る石が落ちていた。
「ケン。これ魔石にゃ。ダンジョンでは外と違って、魔物を討伐すると魔石を落とすにゃ。」
「なるほどね。なら、討伐した魔物の魔石はオレが預かっておくよ。」
オレは魔石を預かって空間収納に仕舞った。そして順調に9階層まで進んだところで、その日は終了することにした。
「ケン。ダンジョンの中では交代で休むにゃ。なら、最初にローザが休め、オレが次、最後がミレイだ。3時間交代な。」
「分かったにゃ。でもその前にお腹が空いたにゃ。」
「私もお腹空きま、空いたで、空いた。」
なんか敬語を必死でやめようとしているローザが可愛い。思わずローザの頭をなでてしまった。すると、ミレイが反発する。
「ケン! ずるいにゃ! 僕の頭もなでなでするにゃ!」
オレは頭をなでるというより耳をモフモフした。すると、ミレイの様子がおかしい。
「ダメにゃ。ケン。そこはダメにゃ。」
オレは慌てて耳から手を離した。
「ケン。獣人族の耳は夫婦が触るところにゃ。」
ミレイが何を言いたいのかすぐにわかった。オレは、誤魔化すように空間収納から干し肉を取り出した。
「当分これで我慢してくれ。」
すると、ローザが驚いていった。
「ケン兄! 今どこから出したの? もしかして空間収納の魔法も使えるの?」
「まあね。」
「なんか、ケン兄。すごすぎ。冒険者ランクはSなの?」
「いいや、Fだよ。」
「え————! 信じられない!」
「ケンは目立たないようにしてるから仕方ないにゃ。」
「そうなの?」
干し肉を食べた後、順番通り休憩に入ることにした。
“リン。ゆっくり休む方法ないかな~?”
“結界を張ることをお勧めします。マスターの結界は強いですので、魔物は中には入れません。”
一応、オレは頭に浮かんだ結界の魔法を自分達の周辺に発動しておいた。翌朝、ミレイに起こされ、干し肉を食べた後10階層に向かった。10階層はボス部屋のようで大きな扉があった。中に入るとゴブリンキングがいた。
「ローザは後ろから弓矢で目を狙って攻撃。ミレイは剣で足を狙って攻撃だ。行くぞ!」
「うん。」
ローザが一生懸命に矢を放つがなかなか命中しない。すべて、ゴブリンキングに叩き落されてしまう。ミレイも足を狙って攻撃するが、逆に大きく蹴り飛ばされた。
“2人に魔法を付与できればな~。”
“付与魔法は普通手持ちの武器にするものですが、試してみますか?”
“やってみるよ。”
オレは頭に浮かんだ魔法を2人に付与した。『身体強化』の魔法だ。付与の仕方は簡単だった。付与したい相手の額に手を当て、付与したい力を想像しながら魔力を流すだけだ。
「ケン。何をしたにゃ。急に額に手なんか当てて。」
「2人とももう一度攻撃してごらん。そうすればわかるさ。」
2人がもう一度同じ攻撃をする。先ほどとは桁違いの速さで矢が放たれた。矢がゴブリンキングの目に突き刺さる。
「ギャー」
ゴブリンキングがよろめいた。その隙に、目にも止まらぬ速さでミレイがゴブリンキングの足に切りつけた。ゴブリンキングの足からは血が噴き出し、ゴブリンキングはその場に倒れた。
「ドサッ」
「ミレイ! 止めを!」
「分かったにゃ。」
ミレイが高くジャンプして、ゴブリンキングの頭を切り落とした。
「ふ~!」
2人が戻ってきた。
「よく頑張ったね。2人とも。」
「うん。ケン兄が額に手を当ててから、矢がすごく速く飛んだの。しかも正確に。」
「僕も全然速く動けたにゃ。でも、何をしたにゃ?」
「身体強化の魔法を付与しただけさ。」
「凄いにゃ~!」
「ありがとう。ケン兄。」
その後、11階層に降りるとコボルトがいた。コボルトはゴブリンに比べて体が大きく、動きが速い。
「ミレイもローザも魔法は使わないのか?」
「使わないんじゃなくて、使えないにゃ。」
「私は水魔法なら少し使える。」
「ミレイは魔力がないのか? それとも適性がないのか?」
「魔力はあるにゃ。適性は火にゃ。でも、使い方が分からないにゃ。」
「なら、せっかくダンジョンにいるんだから、オレが教えるよ。」
「本当にゃ? ケン大好きにゃー!」
ミレイが抱き着いてきた。柔らかいものがオレの右手に当たっている。左手には固いものが当たっている。見ると、ローザが同じように抱きついていた。どちらもかわいい。
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