予言者

カマ999

第1話

ぼくは予言者がずっと憧れだった。


ハリウッドのSF映画、ゲームの中のファンタジーに出てくる主役じゃないけど重要な役まわり。

うん、なにせ僕は別にギラギラと目立ちたいわけじゃないし、自分の涙や泥臭い努力を見せて沢山の人から共感されたいわけじゃない。

ぼくは他者から、共感できないほどすごいと思わせるような圧倒的な存在になりたかったんだ。


2023年1月5日、大学の後期授業再開。

あの長ったるかったコロナウイルスのパンデミックも一区切りついた頃、僕はまだマスクを着けていた。

3年も続いた疫病対策の要のマスク着用は、ウイルスからは守られたかもしれないけど他人の目に対する羞恥心を増大させてしまった。少なくとも僕はそうなってしまった。

実家の僕の子供部屋にあるタンスの2番目の引き出しには、カラーバリエーション豊富な布マスクのストックが眠っている。

お気に入りはグレーの布マスク(通称:ネズミーランドマスク)だ。

僕は黒髪だから、あのランドの公式キャラクターの頭に通じている。

でも、僕はあそこは嫌いだけど。

今日は講義の1コマ目が終わって、次の3コマ目まで暇だから空き講義室で一人うだうだしている。

一応ペンケースと次の講義の参考書を机の上に並べていたが、それはただの飾りになっていた。

両肘を机の上につけて猫背になりながら、黒いダウンジャケットのポケットに入れていたスマホを取り出し何気なく近所の映画館の上映スケジュールを眺めると、一つ気になる映画を見つけた。

「新聖人:エドルフ」という洋画だ。

この映画のタイトルに見覚えがあったが、詳細を見るとSFサスペンスものらしく悪に染まった醜い世界に現れた聖人エドルフが、仲間と協力しながら闇に立ち向かっていくストーリーらしい。

僕はSF映画が昔から大好きだから今度観に行こうと決めた。

あのコロナのパンデミックにも映画のような非日常感があったけど別に面白くはなかったか。

僕にも仲間がいればなにか違ったかもしれないけど。

そう思うと、この講義室で一人でいる自分が嫌になるから考えるのをやめた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る