雲と花
僕が目を覚ますと…背中に包み込んでくれる感触が伝わる。ベッドの上だろうと推測するものの…身体が怠くて、そのまま身を任せてしまう。
何か大事な事を忘れているような…………
——そうだっ!!エリスはどうなった!?
と思ったのは束の間——…たくさん泣き腫らしたであろうりっちゃん先生が、僕の身体へ抱きついて来た。
彼女のそんな姿を見れば分かる——僕達はあの
『ふっ…妾なら一時間もすれば…目が覚めたのじゃ。主はまだまだ軟弱者なのじゃ』
——この状態は、アフロディーテが無駄に『現神』をしたせいじゃないかなぁ
『な、なんじゃと!!確かに…浅はかだったのは認めるのじゃ!!じゃが…』
僕が彼女といつも通り、やりとりしているとりっちゃん先生に再度——僕の顔を起こし…自身の豊満な胸に当てて…両手で抱きしめられる。
——なんて柔らかいのだろうか…!!それに加えて…彼女から柑橘系の良い匂いがする…。あぁ、このまま何も考えずに眠ってしまいたいと思ったのと同時に、忘れていた前世の家族の心配が僕の脳裏に
だけど——今は、心の中で前世の家族の不安に鍵を掛けて…僕はりっちゃん先生の艶のある黒髪を出来るだけ…髪型が崩れないように優しく右手で撫で、彼女の眼を見て、伝えたかった事を伝える。
「先生、心配かけて…ごめんなさい。負けてしまってごめんなさい…」
「穂花…そんな謝罪を私は求めていません」
『うむ。全くその通りじゃ』
「た…ただいま……………」
「はい!!おかえりなさい!!もう二度とあんな真似はしないでください…。……それとやはり、穂花は高位の神と契約していますよね? 」
——バレないはずがないよね。エリスの攻撃を耐え切る等、アフロディーテの奇跡魔法の強化がなければ、絶対に不可能だから…。
「うん…僕の
りっちゃん先生は僕の言葉を聞いた瞬間——窓の方へと向かい…沈みゆく夕陽を眺めだした。
——あの姿は、ディスイズ現実逃避だっ!!
その後、僕の側に置いてあったリンゴを無表情で右手を包丁に左手を支えにくるくると剥き出した。
◆◇◆◇
「ところで穂花の体調は大丈夫ですか…?」
「うん…多分エリスは僕を即死させるつもりだったんじゃないかな。傷をつけることと殺す事だと手法が異なるから…そのおかげで軽傷だよ…」
例えば、縄で首を絞めて殺す場合なんかがそうだ。もし、首が縄から解放されれば、ほんの少しの間だけ苦しいものの——直ぐに楽な状態になる。
「…にしてもお堅いりっちゃん先生が、黄泉さんから、穂花って呼んでくれるようになったんだ…?」
硬い空気は苦手だったので、少しだけ…楽にする。
「もう私にとって、穂花は大事な人ですので…ご迷惑でなければ、花山さんや月夜さんのように呼んでみたくなりましたのですが…だめでしたか?」
「ううん…。むしろ、そっちのが助かるよ!!も、もしもの話だよ!!もし……りっちゃん先生の何をやってもうまく行かない性格が…僕によって創り出された物だとしたら、その場合——りっちゃん先生ならどうする…?」
「穂花によって私の人格が作られる…。考えたこともありませんでしたが、きっと貴方なら私は笑って許せたと思います。いいえ、むしろ、責任と称して、結婚を迫っているかもしれません。大事なのは——私の想いです」
夕陽が完全に沈み…今宵の空を彩る幾多の星達と月の淡い輝きがりっちゃん先生を照らす。しかし、そんな光よりも彼女が笑顔を浮かべながら、僕にりんごを口に運ぶ姿は…今宵のどんな光よりも輝いていた。
そのりんごは、剥き終えてから時間が経過していたため、本来は酸っぱく感じる筈なのに、この時だけは、ほんのり甘く感じた。
「りんごを食べ終えたら、私と共に帰りましょう?穂花の家まで責任持って送り届けます。後、教師として、貴方の大事な人としても、ご両親には、色々と説明しなければなりませんからね」
——アフロディーテェェ!!ヘルプゥ!!お母さんと今の彼女が鉢合わせると戦いが起こる未来しか見えない!!
『呼ばれた気がするのじゃが………現在、妾はお留守にしておるのじゃ。どうしても、妾を呼びたい場合は、三回その場で回ってわんっと鳴いてから出直すのじゃ』
——よし、コレとは後で戦争だ。
とりあえず、時間稼ぎのためにも、それ以降の口に運ばれるリンゴは味わって食べた…。
ーーーーーーーーー
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