相棒
名残惜しいけど、りっちゃん先生を引き離して、改めて、如月健斗の観察をする。
——僕が先生と
『主よ、今すぐ彼女を連れて逃げるのじゃ…。理由は分からぬが此奴から邪神:エリスの気配を感じるのじゃ。妾は主を失いたくないのじゃ…』
——アフロディーテにしては弱気だなって…エリス!? 僕の『
もし、彼女の言う通り、如月健斗の背景は不明であるものの…エリスと契約して『現神』をしている状態ならば、彼の無表情にも一応の納得の説明ができてしまう。
「黄泉さん…下がってください。ここは教師として…貴方の大事な人として命を賭けて守ります」
りっちゃん先生が、全身をガクガクと震わせながらも僕を庇うように前へと出る。彼女も如月健斗から放たれているただならぬ気配に感づいたのかもしれない。
実際、彼女は授業中——彼女はアフロディーテの存在にほんの少しとはいえ…勘づいていた。
——僕の身体も彼女と同様…震えている…。もしかしたら…思考する前に身体が気づいてしまったのかもしれない。目の前の存在が僕達では届かない領域にいる正しく『本物の神』から出る圧力だと——
でも、りっちゃん先生が契約している『中位の神:
「りっちゃん先生——今すぐ逃げてっ!!逃げてください!!相手の狙いは僕です!!」
「お断りします!!勝てないことなんて…百も承知ですよ…!!安心してください!!元より何も上手くいかなかった人生です!!それでも、せめて私が一目惚れした穂花を守らせてください…」
——なんで、やだよ…。僕にそんな価値なんて、そもそも、貴方の人生を狂わせたのは誰でもない、僕だ…。
『うじうじするでないのじゃ!!主が戦うのじゃ!!それに妾を脅せる其方がそんな柔なわけないのじゃ…。初陣にして、相手は最凶で最強の神——じゃが、妾達は二人で最高で最強じゃ』
——ああ…そうだとも!!なら、僕と共に死線を潜ってもらうぞ!!僕の
『うむ…主はそれくらいの空元気でいいのじゃ』
「りっちゃん先生——あいつは僕がやる!!先生は、教室の隅々に、雲を出現させて、僕達がいつでも逃げれるように準備をしていてほしい!!」
豊雲野神の奇跡魔法の効果は『雲を出現させる』シンプルだ。しかし、多種多様な属性を付与した雲を自由に編み出せる万能型である。故に——弱くはないが、決して、彼女の奇跡魔法は戦闘向きとは言えない。
りっちゃん先生は葛藤しながらも、一旦僕とは離れて、奇跡魔法を行使して、窓側に雲を生成する。
「わての正体がばれておりますなぁ…。しかし、本当に会えるとは思っておりませんでしたなぁ。最高神のアフロディーテの契約者様と——初めまして、そして、さようなら」
その言葉を発した瞬間…エリスを宿した如月健斗が僕の視界から文字通り消えた——
『全ての力を腹に集中させるのじゃ。今回ばかりは、妾を信じるのじゃ!!』
——僕が大切な場面で、相棒であるお前を信じないわけがないだろぉぉぉ!!
彼女の言葉通り、腹に全力で力を集中させる。
ドゴォッ!!!
集中させたと同時に——僕のお腹に瞬間的な痛みよりも、まるで、丸太のような太い木材で、バットのようにお腹へ横振りされた感覚に陥る。
痛覚より耐え難い重さが僕の体に巡り…次々と机と椅子を薙ぎ倒しているにもかかわらず…ただただ、呼吸をするためだけに、激しく空気を吸うことを優先にしなければ、生きることができない状態だ。
最後に白い壁へとぶつけられた時に、やっと遅れて痛覚が機能した。だが…あまりにもの衝撃のせいか瞬間的な激痛を味わった数秒後——僕の視界は揺れ始めた。
僕がエリスに吹き飛ばされる姿を見たのか——いつものような涼しい顔と真反対の赤い顔をしたりっちゃん先生が僕の元へと駆け寄って来れたが………今の僕には彼女を安心させる言葉を出す余力も残っていなかった…。
——りっちゃん先生、心配かけてごめんね…
『大丈夫なのじゃ。今はゆっくり眠るといいのじゃ。主はよく頑張ったのじゃ…』
薄れゆく意識の中——最後に聞こえたのは、いつもの意地悪そうな声で揶揄うアフロディーテの声ではなく、心底、僕を労う優しい口調をした彼女の声だった——
◆◆◆◆
(りっちゃん先生視点)
「できれば…どいてくれませんかなぁ…。余計な殺傷はしたくないんですなぁ…」
「嫌です!!穂花は…彼女だけは…担任の私が最後まで守ります!!」
「仕方ありませんなぁ…なら、二人仲良く……」
倒れている穂花を覆い被さりながら、目を瞑り…自身の最後の覚悟を決めた瞬間——
「お二方、おはようございます。…にしても物騒ですねぇ。さてと…如月君…いいえ、違いますね。『元最高神:エリス様』、次は私が相手になりましょう」
私を庇ってくれたのは、弥生校長でした。しかし、普段の穏やかな彼の雰囲気とは異なり…ここからでも感じる程、好戦的な眼をしています…。
「『高位の神:フォルセティ』の契約者である貴方が出て来た時点で、援軍を呼んでるの——わては見通しとるのでなぁ…。ここは一旦退くなぁ…」
その言葉と共に、如月健斗の姿をしたエリスと呼ばれる神は、ゆっくりと扉の方へと向かい、去りました。
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