追放されしその男、ドラゴンにつき。
肆伍六 漆八
第一章 追放
第1話
「先ほど行われた会議で、君の除隊が正式に決定した」
俺はどう返事をしても結果が変わらないことを察して、ただ頷いた。
話は昨日の夕方に遡る。
この世界は、人類と龍による戦争の渦中にあり、ここギシミア国も例外ではなかった。
「よし」
一人の青年が支度を終えて、紅茶を口に運んで一息つく。
彼は名を“イオ・ウルフラム”と言った。風になびく鮮やかな金髪と、透き通った碧い瞳。街行く女性が思わず振り向くほど整った容姿。戦時中でなければモデルや俳優が天職だと誰もが口々に言う。またその能力も飛び抜けており、龍に対抗する軍事力である“龍伐隊”の訓練学校を主席で卒業。その後最前線部隊に配属され、卒業から二か月程度にも関わらず一小隊を任される。
テレビのニュースでは、ホームレスの増加が社会問題になりつつあると報道されており、自称コメンテーターが的外れな持論を展開していた。
「では、天気予報のお時間です」
「そろそろか……」
イオは腰を上げて、軽くストレッチをした。彼は龍伐隊の隊服に身を包んでいた。学ランを思わせる黒い隊服には、銀色の装飾が施されている。正隊員の証である。
「!!!!!!!」
警報が鳴る。空襲を知らせるそれは、イオの耳を容赦なく劈いた。そしてその警報から数秒の暇もないうちに、イオが住まう隊舎は爆発、炎上した。
直前に誰かが“龍だ!”と叫んでいた。
「ぐ……くそ、手加減を知らないのか……相変わらず」
瓦礫の中からイオがはい出す。爆発によって鈍った聴力や四肢の感覚が戻り、自身が五体満足であることを確認しつつ、周囲の惨劇が嫌でも耳に飛び込んでくる。
「龍の空襲だ! ブレス攻撃だ!」
ブレス。それは龍の口から発せられる熱線である。この世の万物で破壊出来ない物はないと言い切れる程のエネルギー量で、イオが居た隊舎はピアノ線で何度も切られた豆腐のように崩れていた。
「動ける者は武器保管庫へっ!」
イオが叫んだ。彼は若く、新人という立場であることに変わりはない。だが、彼の一声で何人もの隊員が冷静さを取り戻す。彼らは泣き叫ぶ半身の仲間へ敬礼しながら、踵を返して保管庫へと向かった。
状況を捉えて現状での最適解を導き、実行に移す。そしてそれを他人にある程度強要しても、必ず続く者がいる。イオは、そういうことができる男だった。
集められるだけの人員を集めて保管庫へたどり着いたイオは、すぐに装備の支度を始め、無線で本部へ交信を試みる。
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