第8話 暁栞の告白
前から気になっていた事。栞からの好感度が何故か高い気がしていたのだ。出会ってから約一ヶ月程度の関係のはず。それに変わった接し方をしているので、距離を取ろうとするか、関わらないようにするのが普通だろう。
「えっーと、話さなきゃダメ?」
「隠すような事なんですか?」
「そうじゃないけど……心の準備が」
なにやらまごつく栞。その仕草に希は、ラブコメの恋する乙女の一世一代の告白を思い浮かべた。
「……ねぇ、希」
「はい、なんでしょう?」
「私たち昔、会ったこと、あるんだよ? 憶えてない?」
そう言われ希は昔の事を思い返してみるが、まったく思い出せなかった。
そもそも、最近のちょっと前の事ですら、直ぐには思い出せない。ヒントも無しに思い出すのは、希にとっては至難の技だ。なので希は素直にヒントを貰うことにする。
「具体的には?」
「えかきさん。……聞き覚えあるんじゃない?」
その言葉はこの前買い物に行った時に、そんな話をした事を思い出す。
その話の人物となれば、幼い頃に交流のあった、名前も思い出せないあの子になる。
「キミが私の絵を褒めてくれたから、私は絵を描き続けて、頑張った結果、デビューしたの」
「そうなん? 俺、褒めたりしたん?
「昔の絵があるから見てみる?」
「そりゃまぁ、可能なら」
「ん、ごちそうさま。じゃあ私は、先に戻って準備してくるね」
そう言って栞は自室へ戻っていく。
希も夕食を食べ終えると、まずはその場の食器類を洗い片付けてから、二階201号室の栞の部屋を向かう。
コンコンッ
「どうぞ」
返事を聞いて扉を開ける。栞の部屋は、相変わらず嵐にでもあったような、荒れた部屋だった。
「失礼な事、考えてない?」
「滅相もありませんよ」
「……そう?」
まぁ今さらなことだが、触らぬ神になんとやら。口や表情には出さないように気を付ける。それはさておき、希は例の絵の事を訊ねた。
「それで昔の絵とは?」
「うん、これだよ」
一冊の自由帳を手渡される。中を見てみるとそこには数々の拙い絵が描かれていた。
拙くはあるが、色使いなんかは目を見張るものがある。幼い頃に描いたものとすれば、十分才能の片鱗が垣間見える出来であった。
「どう? 思い出した? このノートに描いていた絵を見て、希が褒めてくれたのよ」
「はぁ……」
言われてみれば、覚えがあるような気もする。しかし小さい頃の事だからか、やはり鮮明には思い出せない。
「思い出せないかぁ」
「あ、いえ、そんなことは」
「無理しなくていいよ。なんとなくそんな気はしてた」
「そうなんですか?」
「これまでのキミを見ていたらね。けど、昔会ったことがあるのは本当だよ」
「そう言われましてもねぇ……。写真でもあればハッキリしそうですけど」
「写真? 写真なら」
そう言うと栞は、棚の上に置いてある写真立てを手に取り希へと差し出す。希はそれを受け取り見ると、そこには三人の子供が写っていた。そのうち真ん中の人物は、幼い頃の希にそっくりであった。
「この写真は?」
「会えなくなる、少し前に撮ったものだよ。覚えてない?」
「言われてみれば……珍しく写真を撮った日があったような」
写真を見てそんな事があったと少しだけ思い出す。
「二人は俺と暁さんだとすれば、このもう一人の子は?」
それともう一つ。本を読んでいた子と、夢の話をした子を同一人物として思っていたが、実はそれぞれ別人ではないか、と言う事に写真見て気付く。
「ゆかりのこと? ゆかりは姉妹よ。それより、本題に戻りましょうか」
栞が手を差し出すので、希は写真立てを手渡す。栞は受け取ったそれを眺めながら、少し恥ずかしそうに話す。
「私はね、昔からキミの事が好きだったんだよ。」
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