ふつかめそのさーん。
地図上のめっちゃ動いてる青い点を追いかけるとは決めたものの、動いてるからこそ難易度は高い訳で。
「これ、なんとか出来る機能とか無いんすか」
『なんとかとは』
「ほら、アレっすよ、あの、アレ」
『どれ』
なんだっけ、あの、アレだ。
「自動追尾?」
『追撃するおつもりで?』
しねぇよ。
『もしかしたらスキルの方にあるかもしれませんが、それはきっとあなたの方がお詳しいかと……』
「いや、ただの例えなんすわ」
アタシそんなサイコパスじゃないんで。
『あ、なるほど。すみません神はそういう言葉遊びしないので……』
「遊んでねェんすけど……まあいいや」
これはもう文化の違いだわ。知らんもう。
色々と諦めて立ち上がる。そのまま焚き火に足でそのへんの土をかけて消火した。
昨日平らにしたからか土に石とかなくてめっちゃサラサラなんだけどウケる。湿気とか一切無かったらもう砂じゃん。
他には特になんかしなきゃいけないことあるっけ?
火の始末はおっけー。寝たのは地面だったから、まあこんなモンか。
サバイバル知識無さすぎて分からんけど、骨まで食ったからゴミも無いしね。
キャンプとかではゴミの始末を家でするまでがキャンプってオカンが言ってた。覚えてないけど。
「とりあえず、出発しますわ」
『はい! 行きましょう!』
なんでコイツこんな嬉しそうなんだろう。
簡易地図の中で、動いていた方の青い点目指してしばらく進んでいたら、ふと気配を感じた。
いや、気配っていうか、物音というか、なんかそんなアレなんだけど。
「鹿だ」
少し距離はあるけど目視の範囲で、しかも風下。つまり気付かれてない。これはもしやチャンスか?
『せっかくですし、食料調達しときましょうよ』
「それもそーすね。皮とか売れそうだし」
やっぱ先立つものって大事すよね。こういう皮ってだいたいどこでも売れそうだし、他のなんかに使えるかもしれんもんね。
そのまま、昨日の小弓、と考えただけなのに、スンと手の中に弓が出て来た。考えただけで出て来るのまじでなんなんだろ。便利だからまあいいや。
「よっこいしょ」
まって。今アタシどっから矢出したん?
なんか普通に撃っちゃったけど、何が起きたん今。
ちなみに、昨日の今日で、命を奪うという行為に慣れてはないです。まだ無理。三次元のスプラッタ無理。でもお肉は必要なので頑張るよ。弱肉強食って真理だよね。
『おぉ! 昨日も思いましたが良い腕ですね……!』
「筋肉見てない?」
『見てますん』
「どっち?」
気が抜けるんすけど。
『それよりもアイテムとして収納しましょう!』
「へいへい」
確認の為にアイテム欄を出した状態で手を翳し、念じながら鹿を収納すると、昨日の鹿肉や皮といったアイコンの右下に表示されていた個数が増えた。
なんつーか、本当にゲームそのままの仕様で現実味が薄い。
これさぁ、絶対そのせいもあるよね。現実っぽくないて思うの。アタシらそんな悪くないよねこれ。
マジでワタナベさんさぁ、そういうとこやでホンマに。
とか考えながらも歩く。他にも獲物が居るかもしれないので足音が立たないように頑張って歩く。
ふと、どこからともなく洗ってない犬みたいな感じの匂いがした。
「あ、猪だ」
臭いと思ったら猪だったらしい。なんかツノ生えてるけど、あれは猪でいいっしょ。
距離は……猪の平均体格が分からんからイマイチ分からん。とりあえず目視は出来てる。
『おお! アレも狩っときましょ!』
「そーね」
猪って豚に似てるんよね確か。じゃあもう狩る一択だな。
風向きを確認しつつ、側面から猪を狙う。
さっきと同じように弓を出して矢を放ったら、こめかみにちょうど矢が刺さって、向こう側に突き抜けていった。
……鹿よりは頑丈だったみたいだけど、さすがに脳天貫かれたら死ぬよね。
猪はドシャッと倒れて、少しの間ビクンビクンしてから動かなくなった。
というか、この弓威力そんなになかったと思うんだけどなんでこんななってんの。やだ怖い。
『ふおお……かっこいい』
ワタナベさんは無視して、猪をアイテム収納し、そしてまた歩き出した。考えない考えない。
『なんでそんなカッコイイんですか……』
「いや、そんなんいいから行くっすよ」
『はーい』
いや、まぁ、褒められるのはそんなに嫌じゃないんだけどさ。
しばらく歩いたらまた鹿を発見した。
「結構いるんすねェ」
『どうせならたくさん狩っておきません?』
「たしかに。毎日狩るのァめんどくせェし、生態系壊さない程度に今狩っときますか」
『はい!』
そんな訳で、適度に狩っておく。
一匹狩れば二匹も同じというか、少しでも慣れておいた方が良いとも思った。
この世界で生きていくなら必要なことだろう。
鹿、猪、鹿、鹿、兎、鹿、鹿、鹿、鹿。
そんな感じに狩っていたらだんだん麻痺……したら良かったのになんでしねぇのよ。
やだもう。でも肉は食う。食うために狩る。はよ慣れろ自分。
そんな風に狩っていたら、なんかだんだんと変なテンションになってきた。もしかしてランナーズハイ的なアレなんだろうか。
そろそろ終わりにしとこうかなと思いながら、矢を放つ。
「よっ」
『あっ、今の角度良い……!』
斜め後ろからデジカメの連写音と、なんかキモイ声が聞こえた。
「なに、この角度好きなの?」
『はい……! 普段チャラいイケオジが真剣な顔で獲物を狙う流し目……素晴らしいです……!』
「……へェ?」
『アッ、その不敵な笑み……! 良き……!』
ただのドヤ顔だったのだが、それがなんか予想外にウケた結果、変なテンションの自分が調子に乗り始める。
「じゃあこういうのは?」
『アアアアアア!! ウインクは卑怯です素晴らしい!』
「ふぅん、これは?」
『アッアッアッ! イイ……!』
手で前髪を掻き上げながら、ワタナベさんを見下ろす。
連写音が止まらない。
「じゃあこれは?」
『ヒャアアアア! 素晴らしいイケオジ……!』
そのまま弓を持ってなんか色々カッコよさそうなポーズを取って、それが大はしゃぎでめっちゃ撮られたところで、我に返った。
「………………くそっ……、学生時代の悪い癖が……!」
『素晴らしいファンサ、ありがとうございました……』
「うるせえ」
シバくぞ。
『全てサーバーにアップロードして、永久保存しておきます』
「やめて」
むしろ全部消せそんな黒歴史。
ていうかサーバーとかあんの? 爆破していい?
『嫌ですよ! 楽しみにしてる神がいるんですから!』
「いや、どういうことなのそれ」
そんな神お前だけでおなかいっぱいなんだけど。
『あ、ところで、学生時代の悪い癖ってなんなんですか』
「聞くな」
人間なら誰しもあるだろ。黒歴史が。そんな感じのアレだよ。察しろ。これ以上はノーコメントです。
『へぇー、そうなんですね。あ、そうだ、気になってたんですけども』
「今度はなんすか」
ものすごいデカい溜息を吐き出して心を落ち着けてから、そのまま放置してしまっていた鹿をアイテム収納する。
『体が男性に変わってしまったの、本当に気にしてないんですね』
不思議そうな声というか、怪訝そうな声というか、そんな感じの問い掛けだった。
「あー、それなんすけども」
『はい』
「今の状態が、着ぐるみみたいにガワ被ってんのと同じだと錯覚してっからそんなに動揺もしてねェし、普通で居られてるぽいんすよ」
『え、それ、大丈夫なんですか』
「……いつになるかは分かんねーけど、完全に自覚した時にどうなるか、……怖ェすね」
正直、その時がくるまでは自分の精神状態がどうなるかなんて、まったく予測がつかない。
元々そこまで気にしないほど図太くない……と思う。多分。知らんけど。
『え、え、あの、どうするんですか』
「どーもこーも、自覚して、現実だと認められるよーに頑張るしかねっすわ」
『わ、わたくし、サポートがんばります……!』
「よし分かった。丸投げすっからよろしく」
『ひどくないです!?』
ひどくねェよ。
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