ドラゴさんのふつかめそのにー。

 



 頭の上の子供がめっちゃ笑っている。

 なんでこうなったかというと、ロンちゃんのせいだ。


 なんか、おばあちゃんのお手伝いで薪割りしようと外に出たらロンちゃんに気付いた子供達がわらわらとやって来たのだ。

 気付いたら子供まみれになっている。五人くらい小さい子がいる。女の子も一人いるけどそれは遠くからこっちを見ていた。何歳くらいかとかは興味ないからよく分からんけど。


「おじちゃんどっからきたのー?」

「上流だよ~」


 元気な男の子が足元からよじ登ってくる。

 ものすごく元気である。


「じょーりゅーってなにー?」

「なんだったか忘れた~!」

「そっかー!」


 もう一人の元気な男の子が腕にぶら下がった。

 頭の上の子はゆらゆら揺れている。元気。


 これで三人の子供によじ登られている。なにこれ。

 めっちゃ元気。それもこれも全部ロンちゃんのせいだけど。まじでなにこれ。


「おまえらっ! なにやってんだよ! そいつはさんぞくだぞ!」

「ロンにいちゃんもあそぼー!」

「あそぼあそぼー!」


 自分、ジャングルジムじゃないんだけどな。ロンちゃんのせいなんだからなんとかしてほしい。


「そんなヒマねぇ! いいからそいつからはなれろ!」

「ねーねーロンにいちゃん、さんぞくってなにー?」


 頭の上というか、これ肩車なのかな。あ、肩車だこれ。

 その子が不思議そうな感じで聞いた瞬間、ロンちゃんが怒鳴った。


「わるいやつだ!」

「ふーん、おじちゃんわるいやつなのー?」

「え~? ちがうよ~?」


 下からの声を聞きながら首を傾げたら、肩車してる子も傾いてキャッキャと笑った。

 わるいやつってこう、なんか、わるいんだよね?


「ちがうっていってるよー?」

「くちではなんとでも言えるだろーが!」


 たしかに!

 だがしかし!

 ロンちゃんはひとつ、間違っている!


「ロンちゃん、ひとを見た目で判断しちゃ、ダメなんだよ?」

「うぐっ」


 ビシッと言ってやると、ロンちゃんがショックを受けたように後ずさる。


 せんにゅうかんにとらわれちゃいけない! ってハーツさんが言ってたから、間違ってないはずだ。


「そーだよー! うちのとーちゃんもゆってた!」

「かーちゃんも!」

「そーだそーだ!」

「ぐぬぅっ」


 色んな人が言ってるから、やっぱりハーツさんは間違ってないな! さすがはハーツさん!


 その時、遠くにいた女の子がおどおどしながらそーっとやってきて、ロンちゃんに話しかけた。


「あ、あの、ロン君、このひと、ほんとにさんぞくなの?」

「……まだしょーこがねぇから、だんげんはできねぇけど、ばあちゃんの秘伝のレシピをねらってるとおもうんだ」


 だから秘伝のレシピは秘伝だから秘伝なんだってば。勝手に外に出しちゃダメだよロンちゃん。まったくもう。


「証拠がないなら、うたがっちゃダメなんじゃないの?」

「…………でも、こいつ、あやしいんだ」


 影であやしいとか悪口言ってるよロンちゃんてば。面と向かって言えばいいのに。あれ? 言ってたっけ? どうだったっけ。忘れたや。


「ロン君、あのね、せいれいさまは、このひと、わるいひとじゃないって、いってるよ」

「…………」


 無言のロンちゃんである。顔は、なんか完全に拗ねた子供だ。

 あ、ロンちゃん子供だからホントにそのままだ。拗ねてる子供。

 そんでこの女の子はアレかな、不思議ちゃんってやつかな。知らんけど。


「それに、ひとみしりの三つ子たちが、あんなにわらって、なついてるし」

「………………」


 ロンちゃんの眉間のシワがすごい。顎もシワシワだ。めっちゃ拗ねてる。すごい拗ねてる。


 ていうかこの登ってきてる子達三つ子なの?

 なんか動きがアグレッシブすぎてか顔がブレてよく見えないんだけど。アグレッシブが何かはよくわかんないけど、ダバダバしてたら多分アグレッシブだから間違ってないと思う。知らんけど。


「サラちゃん、気にしないでいいわよ。ロンはただ引っ込みがつかなくなってるだけだから」


 なんか女の子増えた。これで合計六人の子供達に囲まれてしまったことになる。え、なにこれ。


「リリン! てめぇ!」

「なによ、ほんとうのこと言ったからって怒んないでよね」


 うーん、多分この、リリンちゃんて子が一番年上だな。そんできっと皆幼なじみとかいうやつなんだ。すごいなぁ。初めて見たこういうの。あとドヤ顔すごいねリリンちゃん。


「ホントにあぶねぇやつだったら、どーすんだよ!」

「どーもこーも、あの三つ子がすぐに懐くような大人が悪いやつだったら、この村終わってるわよ」

「そうだよロン君、わたしの家の隣のジムおじさんすら、なつかれてないんだよ」

「たしかにジムおじさんはヤなやつだけど……」


 ジムおじさんヤなやつなんだ……。おいしいパン焼きそうな雰囲気の名前してるのに……。

 あ、パン食べたい。いちごジャムのたっぷり入ったジャムパン食べたい。


 ふと、ロンちゃんが目の前にまでやって来て、ものすごくバツが悪そうにモジモジしながら口を開いた。


「……悪かったよ、ドラゴのおっさん」

「略すとドラさんになるね?」

「なんのはなしだよ!」


 なごませようとしただけなのに怒ることないじゃん。ひどいなぁロンちゃん。


 とか色々やってたら、あっという間に夕方になって、夜になった。


 おばあちゃんのお手伝いで薬草園の雑草抜いたり、畑手伝ったり、薪割りしたり、ご飯作るの手伝ったり、子供達と遊んだりしてただけなのに、すごく一日が早かった。夢だから仕方ないんだけど。


 自分が今いるのは、朝起きた時と同じ、おばあちゃんのお家のリビングっぽいところだ。床に転がってゴロゴロしている。

 これで寝たらさすがに夢から覚めるだろう。


 そういえばお昼くらいに“テロレン♪”みたいな変な音してたけど、なんかどっかで聞いた音なんだよなぁ。なんだっけアレ。

 ひとしきり考えて、ふと思い出した。そうだ、ゲームのメール着信音だ。


 これ夢だし、ゲームみたいになんかやったらメール画面出てくるかな。と思った瞬間なんか出た。さすが夢。

 確認してみると未読のメールが二件あった。


「ワタナベ……、だれ? まぁいいや。あ、こっちはユーリャさんだ」


 ポチっとメールを開いて、読む。

 …………うん、なるほどわからん!


「す、ご、い、ゆ、め、変換、だ、ね、まる、変換、と。送信!」


 送ったらすぐに“テロレン♪”と返事が返ってきた。

 文面にはひとこと。


『いや、夢じゃないすよこれ、マジの現実っす』


「ぱ?」


 ぺ?


 今度はフレンドチャットの方の“テロン♪”という着信音が聞こえた。

 メニュー画面を出して、ポチッとチャットを開く。


『なんか知らん人からメール来てると思うんで、それ読んでください』


 えっ。


 慌てていつの間にか出てた、なんか透けてる薄いキーボードでぽちぽち文字を打つ。

 仰向けでもキーボード打てるとかすごいなぁ。この夢。あれ、でもユーリャさんは夢じゃないって言ってたよね?

 んん? 頭がこんがらがってきた。


『知らん人からのメールとか怖くて開けないんだけど』

『大丈夫だから安心して』


 打った瞬間に返事が返ってくる。


 まぁ、ユーリャさんがそう言うなら多分大丈夫なんだろう。

 いきなりよく分からん怖いページに飛ばされたりとか、そういうのが自分一番嫌いなんだけど、ユーリャさんはそういうことする人じゃないから、きっと大丈夫だ。

 色々と頭が混乱してるけど、それでもそーっとワタナベさんとかいう人からのメールをぽちっと開いた。


 そこには、なんていうか、ユーリャさんからも着てたけど、意味不明な内容が羅列していた。


 だってさ、異世界とか、ファンタジーとか、もう帰れないとかさ、意味が分からな過ぎて、なんか。

 だけど、すとんと納得して、腑に落ちた部分があった。なんか色々というか、あちこち表現おかしい気がするけどまあいいや。


 思えばたしかに色々と違和感はあった。寝て起きたのに夢から覚めてないとか特に。あとはあんまり覚えてないけど。

 だんだん冷静になって来て、冷や汗が出てきた。


 うん、ていうかさ。


 おそるおそる、空中の透明キーボードでぽちぽちとチャットを打つ。


『これ全部夢だと思ってたから、本当に好き勝手やってしまったんだけど、どうしたらいい?』


 まじで。



 

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