いちんちめそのさーん。
その後、これからどうしようか、という話になったのだが、結論としてはあのマイペースな二人を探すために何をどうすればいいのかすら分からないので、向こうから連絡が来るまではなるべく動かずにいることになった。
つまり、本日はここで野宿である。
「ちなみに、声届けるって言ってたけど、届けたんです?」
『あっ』
いや、あっ、じゃねぇよ忘れてたなこいつ。
『だ、大丈夫です、ちゃんと届けてきます』
「……うん、まあ、届けるならいいっす」
善は急げとばかりに、二人のうちのどっちかに連絡を取り始めた小さいのの様子を目の端に捉えつつ、思案を開始する。
『あ、もしもし、聞こえますか? はじめまして、恐れ入ります、実は……』
うーん、サバイバルかぁ……、こういうときって水とか食べ物とか真っ先に探すのが定番だけど、光る小さいのが生きていけるようにサポートしてくれるらしいから、そのへんはあんまり考えなくて良さそうだ。助けてくれるって言ってんだから助けてくれるっしょ。全力で当てにしてやろう。
いや、待てよ? コイツが偽り、騙してる可能性も考えておかないと。安易に色々と信用するのは良くない。
『いえ、あの、ですから、そうじゃなくてですね、えっ? あ、はい……』
ということは、基本的に自分が率先して動いて、コイツに判断を仰ぐようなことは極力避けるべきか。
『あの、ちょ、まって、メニュー画面あるんですってば、いえ、だから、そこのメールに書いて、聞いてお願い』
…………うん。
『メニュー画面にある簡易の地図をですね、見てほしいんです、ちょ、あの、そっちは逆で、ああああああまって! 聞いて! 聞けよ!』
なんか大変そうだなぁ。
『ちょ、ユーリャさん! なんなんですかあの人!』
若干涙声になっていることから、相当アレな返答が返ってきたんだろうと安易に予想出来た。
そんで、こっちに話しかけてきたってことは、会話は終わったんかな?
「どの人?」
『ハーツさんですよ!』
「あぁ、ハーツさんか……マイペースな人です」
『うぅ……』
あ、全然慰めにもなってないなコレ。別にいいけど。
「頑張ってください、あと一人っすよ」
『すでに嫌な予感しかしない……!』
がんばれー、とゆるく応援の言葉を投げかけながら、こっちはこっちで自分の身体に慣れておく為に準備体操をしておくことにする。何せ身長めっちゃ伸びたもんね。元の体から20センチは伸びたんじゃないかな知らんけど。
『くっ、……もしもし、聞こえますか? あ、はい、えっ? いや、あの、まって、ちょ、喋らせてくださ、えっ? あ、いや、そうじゃなくて、はい、はい……』
おいっちにーさんしー、と身体を動かしている間に随分と手間取っているようだ。仕方ないね。
『なんでそうなったんですか、……いや、それは聞いてないです』
今話してるのドラゴさんだもんなぁ。あの天然さんが上手く現実に気付けるだろうか。
『えっ、あの、幻聴じゃないです。ですから、ちょ、ま、聞いてお願い』
無理そうだなぁ。
『メニュー画面のメール開いてくれればいいので! 開いて! 下さい! いやなんでそこで疑うの!?』
さすがドラゴさん、期待を裏切らない天然さが遺憾無く発揮されているようだ。
「大丈夫です?」
『大丈夫に見えますか……?』
会話が終わったっぽいのを見計らって声をかけると、ものすごくげんなりした声と弱々しい光でそんな言葉が帰って来た。相当大丈夫じゃないことは分かる。
「どんまい」
『……もうちょい労って……』
「え、自業自得かと思って」
『……ひどい……』
いやひどくはねぇだろ。
「それより、二人と話してみてどうでした?」
『……ひどかった……』
でしょうね。
「あれだけ天然で、マイペースな人達なかなか居ないと思うっす」
『マイペースの権化みたいな人が言ってもどんぐりの背比べみたいですよ……』
「こんなイケオジがどんぐりとか、アンタひでぇこと言いますね」
『アッ、その角度めっちゃいい……! 写真撮っとこ』
めっちゃちっちゃいデジカメ出てきたけど何してんのこのひと。いや、パシャ、じゃねぇのよ。
「…………アンタも人の事どうこう言えないんじゃね?」
『はっ、たしかに』
だがそんなことよりも問題はこの後の野宿なのである。
何をどうしようかなー、と思いつつ、サバイバル知識(うろ覚え)を思い出す。
えーと、たしか、必要なのは……水と食料と、寝床?
獣避けに罠とか?
『あ、メールにも書いてますがメニュー画面で今自分が持ってるアイテム確認出来ますよ』
「わあ便利」
メニュー画面が出るよう念じて、出た画面をスマホみたいに指先でスイっと操作してみる。念じるのでも選択は出来たけどこっちの方が楽だなぁ。
「お、なんかめっちゃ色々持ってる」
『一応、ゲームで持ってたそのままを突っ込んであります』
「えー、何持ってたっけ」
表示が全てゲームそのままなのは見やすくてありがたい。
初期の頃使っててそのままアイテム欄圧迫してた回復薬とか毒消しとか、そういうのを持ってないのは分かってる。捨てて無いけど、とある所に預けてはある、が、預けなきゃ良かったな、と今更だけど思う。
ハーツさんがヒーラーだから回復してくれてたもんな。
「んー……皮、枝、小石、スライムの破片、蛇の毒袋、毒蝶の鱗粉、ゴーレムの核……」
『なんでそんな物入ってんですか!?』
一個ずつ読み上げてたら、もっともなツッコミが入った。
いや、むしろこいつらは勝手に所持アイテムになってくるんで、断じて自分で拾ってる訳ではない。小石とか特に。
「アタシら、あの直前にダンジョン行ってたから……いわゆるドロップ品すねぇ」
『枝がドロップするって、相手なんだったんです……?』
「妖樹木系。おっ、これは使えそうすね、地下水。あと小石と枝も火起こしに使えるねぇ、多分」
『え、そういう魔物って普通丸太とか取れません?』
「洞窟系ダンジョンだったからか、蔦とか蔓とか枝とか根っこなんすよ」
『へぇー』
丸太が取れるようなのは大体森か山なんだよなぁ。洞窟ってアイテム欄圧迫するような細々としたやつしか取れないけど、たまにレアなのが混ざってたりするから仕方ない。
「なんか火が起こせるもの無いかなと思ったけどなんもねーなぁ……しゃーねぇ」
『何するんです?』
「なんかの映画で見たやつやろうと思って」
『……映画?』
不思議そうな声が頭に響くのを聞きながら、装備系アイテムの確認をすると、結構すぐに見つかった。
「あったあった、ハンドガンと弾薬ー」
これを使えば火が起こせるね。やり方うろ覚えだけど多分大丈夫でしょ。多分。
『ファンタジーに似合わない装備ですね……』
「まぁ、スキルによってはビームも火炎放射も毒ガスも出るしね」
『これからそんなん出るの!?』
「いや、火炎放射はしませんよ? あれナパームだから広範囲過ぎてやべぇんすから」
『良かったぁ……』
なんでそんなんすると思われてんのかね。心外なんだけど。アタシそんなサイコパスじゃないんで。
「ファンタジー世界に銃火器とか、なるべく人目につかないようにしとかないとなぁ」
『あなたでもそんなこと気にするんですね』
「ゲームそのままの設定持って来たヤツがいるからっすわ」
『うぐっ』
誰のせいって、そうだよ、お前だよ。
もうちょい現地に優しい設定持って来たら良かったのにねー。何してんだろねー。
「よし、道具の確認はしたし、あとは拠点作りかね」
『えっ、ここで野宿じゃないんですか』
「ここでも良いかなとは思ったけど、よく考えたらもうちょい平らなとこがいい」
『あー……それなら、円形に広がるタイプのスキル技使ってみてください』
「円形に広がるタイプ……? っていうと……あぁ、吟遊詩人の“発声練習”?」
それはゲームで吟遊詩人が一番最初に覚えるスキルだ。
半径5mの敵を攻撃、かつ行動をキャンセルさせる効果がある。威力は低いけど行動キャンセルが強かったから低レベル帯では重宝していた技だ。
レベルが高くなると全然違う技と合わせることで効果が強くなるから吟遊詩人の基本と言ってもいいかもしれない。
『それを、全力じゃなくてほんのりな感じで』
「ほんのりね、んー、こういうのイマイチ使い方分からんけど……ハープ持って声出せばいいかな」
『大丈夫です! それでいけます!』
いけるのかよ。
「ほんじゃやってみますか、えーと、ハープハープ」
『わたくしは巻き込まれないようにちょっと離れてますので』
「ほいほい。えーと、こうかな……あ~あーあ~あーあ~」
ポロンとハープを爪弾きながら軽く発声練習ぽいのを口ずさんだだけなのに、自分を中心に地面が波立って円形に平らになってしまった。多分音波なんだろうけど、なにこれ。
「はぇ~、すごいもんだな」
『はぁ……声も良いとかあなたマジでなんなんですか……』
「そこはめっちゃこだわった部分なもんで。吟遊詩人が微妙な声とか納得いかねぇでしょうよ」
『たしかに』
真剣な声で返されてもリアクションに困るんでスルーしますが、それよりも今はやらなきゃいけない事をやらないと。
「さぁて……めんどくさいけど頑張りますかねぇ……」
そんな感じで、本日の拠点作りが本格的に始まったのだった。
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