ドラゴさんとハーツさんのいちんちめー。

 



 ちゃぷちゃぷという音を立てながら水面に浮いている自分。

 空がめっちゃ見える。青い。


 あれ? おかしいな、さっきまでユーリャさんちでテレビみっつ並べてわっしょいわっしょい楽しくゲームしてたのに。なんでだろう。


「どんぶらこ~どんぶらこ~川を~流れてる~る~、るるる~?」


 思わず適当な歌を口ずさんでしまった。ユーリャさんみたいにカラオケが得意じゃないから本当に適当だ。なんか声が低い気がするけどなんだろうこれ。

 空が視界の大半を占めているけど端の方で木が生えているのが見えた。

 多分、ここは……林……あ、やっぱ森?


 なんか、あびゃびゃびゃっていいながら飛んでる鳥がどっか行ったけどなにいまの。


 自分がなんで川を流れてるのか分からない。

 分からないけどなんか楽しい。

 声が低いのもなんか楽しい。


 ふんふふ~ん、と歌いながら川を流れていると視界の端におばあちゃんみたいな人が映った。

 よく見ようとそっちに顔を向けたら、そのおばあちゃんらしき人が手に持っていた草を落としてコケた。

 らしき人っていうか多分おばあちゃんだろうけど。


 ってそんなこと考えてる場合じゃない。あのくらいの年齢の人はコケただけで一大事だ。


「おばあちゃん大丈夫!?」


 やっぱり、なんか自分からやたらめった低い声が出たけど、それは置いとこう。

 おばあちゃんの方に向けてザブザブ泳いで近づく。

 意外と水深が深くなくて途中から立ち上がった。


 なんか目線が高いな?


 疑問に思いながら一歩踏み出した。ら。


「おぱっ!?」


 前に向かって思いっきり転けた。


「あやぁ~大丈夫!?」

「??? なんかコケた」


 驚いたらしいおばあちゃんに声をかけられた。頭の中にたくさんの“?”を浮かべながら、川の中に座って水面を覗き込む。

 ゆらゆら揺れてるけど何が映ってるのか、なんとなく察せた。


「なんか凄いイケメン? イケオジ? が川の中にいる……」

「おやまぁ。自画自賛しはじめたよこの人」

「ねぇねぇおばあちゃん。この水面に映ってるのダレ?」

「お前さん自分のことが分からないのかい?」

「ぱ?」


 自分? どれ?


 不思議すぎておばあちゃんと水面を何度も見ていたら、おばあちゃんが、あらまぁ、なんて言った。


「可哀想に……。その歳で記憶喪失なんてねぇ……」


 きおくそーしつってなんだっけ。あ、記憶喪失か。誰のことだろう。


 川の水面をまじまじと見ながら自分のほっぺをつねる。

 普通に痛い。


「ずいぶんと変な夢だなぁ……」


 まぁいいかぁ~、と言いながら立ち上がる。

 そのまま軽く屈伸をして、そろ~っと片足を出す。

 何歩か慎重に川の中を歩いてコケないのを確認。

 それからようやっとおばあちゃんに向けて歩き出した。


「おばあちゃん大丈夫~?」

「お前さんこそ大丈夫かい?」

「なにが~?」

「可哀想に、きっと酷い目にあったんだねぇ……」

「目? なに?」

「いいや、なんでもないよぉ」

「そっか~!」


 そのままおばあちゃんに近づいて、確認のためにしゃがみ込んだ。

 色々とよく分からないことを言われた気がするけどまあいいや。


「実は腰が抜けたみたいでねぇ。どうにも立ち上がれない」

「それは困るやつだ!! それじゃあ自分がおばあちゃんの家までおぶってくよ!! おばあちゃん道案内よろしく!!」

「いいのかい? それじゃあお願いしようかねぇ」


 よっこいせ、とおばあちゃんをおんぶする。なんかめっちゃ軽いんだけどこのおばあちゃんご飯ちゃんと食べてるのかな。


「おばあちゃんこっから家ってどっち~?」

「ここからだと南東の方角だねぇ~」

「南東だね! わかった!!」

「……そっちは北だねぇ~」

「あれ?」

「あっちだよ~」


 おばあちゃんが指さしてくれたのでそっちに向けて走り出したのだった。







 * * * * * * *







 はてさて、ここは一体どこだろう。

 見渡す限りの森林、見上げるとなんかあびゃびゃびゃびゃと鳴いてる鳥らしき生き物が飛んでいるのが見える。

 近くにあった石を掴んで投げた。ボッという音と共に飛んで行った石が、変な鳥を撃ち落とす。


 真横に落ちてきてちょっと怖かった。ものすごい音したんだけど何ですかね今の。こっわ。

 そう思いながら立ち上がる。


「よっこいしょ」


 どうやらわたしはここで正座していたらしい。なんで正座?

 あと、なんか声がものすごく低い。そして目線が高すぎる。

 これ、歩けるだろうか。コケそうな気がするんですけど。


「うーん」


 あ、やっぱり声低いなこれ? 気のせいじゃないな?

 そんでこれどうしよう、歩ける気がしないし元のように座れる気もしないんですけど。

 横に落ちてきた鳥っぽいのもどうしたらいいか分からない。なんか気持ち悪いし触りたくない。でも鳥だしなぁ。食べれるかなぁ。なんかお腹空いたなぁ。

 ちょうど頭が無いから逆さにすればいい感じに血抜きが出来そうだ。

 でもどこ持てばいいんだろう。足かな。あっ、なんか今わたし歩けてる。やったぁ。


 そんな風に鳥らしき生き物の足を掴んで持ち上げながら、宛もなくほてほてと歩く。

 なんだか知らないけれどすごく身長が高いので気を抜くと足首をグネりそうだ。

 しかし大きいなぁこの鳥。わたしの身長の半分はあるぞ。つまりお肉は多いんだな。よし。

 改めて考えると、この鳥の血で他の獣が寄ってくるかと思ったけど、なんか何も来ないな?

 毒でもあるんだろうか。まあこれきっと夢だし、大丈夫でしょう。知らんけど。


 それよりもこの鳥をどうやって調理するかなんだけれど、夢なんだからそのくらい融通が効いてくれてもいいのに何もない。木と石と葉っぱと草しかない。


 あ、でもあれハーブっぽいな? ちょっと詰んでおこう。あっちもハーブっぽく見えるけどそれはなんか危険な感じがするから放置で。


「───────!!」


 どこからか口論しているような声が聞こえた。

 こんな森の中に人がいるらしい。なるほど、結構浅い森なのかもしれない。


 口論してるとかちょっと戦闘フラグの予感しかないけれど、今の状態のままじゃ鳥の死体を連れ回してるだけの変な人になってしまうからどうにかしたいので仕方ない。背に腹はかえられぬのです。何とかしてこの鳥を捌いて食べられるようにしたいのです。

 コミュ障だから人に話しかけるの苦手だけど、頑張るぞ。肉を食うためになら頑張れるはず。


 あっ、でも森の中で突然鳥の死体を連れ回してる変な人に会っても大丈夫な人達かな。逃げられないといいな。せめてライターだけでも借りられますように。


「────なんて───るな!」


 だんだん声が近くなってきた。結構聞き取れるくらいまでの距離だから、あと少しかな。

 木々を掻き分け、歩を進める。


炎よフレイム!」


 視界の先に火の塊が現れた。

 人間は全部で四人。一人の少女を三人の男が取り囲み、魔法使いみたいな格好の男が大きな火の玉を少女に向かって放っていた。考えるよりも先に体が動く。


 持っていた鳥の死体を振りかぶる。

 投げた瞬間、遠心力で首の傷口から血と内臓がいい感じに飛び出て行くのを眺めながら手を離した。

 そこらじゅうに血と内臓を飛び散らせながらぐるぐると回転しつつ飛んでいく鳥の死体。

 なんだかスローモーションに見える視界のなか、飛んできた内臓と血を避けるわたしと、避けられずに顔面から浴びてしまう男三人。そして、鳥の死体をぶつけられて吹っ飛びゴロゴロ転がっていく少女と、少女の代わりに火の玉を全身に浴び、美味しそうに焼けていく鳥の死体。


 しまった。塩コショウが無かった。


「焼き鳥は塩コショウ派なのに……」


 個人的には、塩と胡椒は半々がベスト。


「なっ、なんだぁ!? 血かこれ!?」

「め、目が、目がぁっ!!」

「ぎゃあああああああああ気持ちわりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 なんというか、大惨事である。大変そうだなぁ。


「うぅ……、いったい、なにが……」


 向こうの方で少女がなんか呟いてるけど、放置。

 それよりも気になったのは焼き加減だ。

 大騒ぎしている男三人もついでに放置して、丸焦げになった鳥の死体を見に行く。

 足を掴んで引っ張ると、いい感じにホクホクのぷりぷりに焼けた肉が飛び出した。

 一口頬張ると肉汁が口いっぱいに広がる。


 心配していた生焼けにもなっていないし、血抜きもさっきので上手くいったようだ。モツが無くなってしまったのは誤算だけど、また狩れそうなら狩ればいいか。


「てめぇ、いったいなんなんだ……!」

「あげませんよ?」


 男たちの内、リーダーっぽいのがなんか言ってきたけど、もぐもぐ食べながら答えたのだった。


「いらねーよ!!!」


 じゃあいいや。




 

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