ⅰ.薄明の空で
地平線まで白い
真昼ならば
近くにまで寄って目を
狼の首まわりを覆うふさふさとした毛に爪を立てエメラルドの瞳を見開いて、船頭よろしく前方を見る黒猫は、長さがおなじ二本の尾をピンと立てている。背にきらめく銀色は金属製の翼だろうか。
狼と猫はともに、人の言葉で何かを言いあっているようだ。よく耳を傾ければ、こんな会話が聞こえてくる。
「南は今時刻の太陽を背に左手方向にゃ。狼の鼻先は目的方向から直角にずれてるにゃ!」
「だってさ、夜が明けたら星が見えなくなっちゃったからさー。太陽に向かって飛べば、いずれ着くんじゃない?」
「動く太陽見てッたらにゃ、ぐるぐる迷子でムダすぎぅにゃーッ!」
「迷子も旅の
「方向音痴をタナにあげるニャー!」
いきりたつ黒猫と狼の声が聞こえているだろうに少女はまったく
ほつれの生じた
のらりくらりと指示をかわす狼に耐えかねたのだろうか。ふいに黒猫は機械の翼をたたみ、くるりと方向転換して少女の胸元に飛び込んだ。
「フィー! リィが絶望的にうにゃにゃぅにゃ! 何とか言ってにゃッ」
「あっ、エメずるい。抜け駆けする猫なんて振り落としちゃおうかな」
「ヤレるもんにゃらヤッてみィにゃ! リィもキリモミって墜落するがオチにゃーッ」
少女とクマの間にすっぽり収まってしまえば、狼はもう猫に手出しできない。そもそも狼という獣は空を飛ぶための作りではないのだ。鳥のような旋回や上下移動ができないことくらい、黒猫もしっかり見抜いている。
ぎりり、と奥歯を噛みしめて、狼が不満の愚痴をこぼそうとした――そのとき。
はるか向こうの地平線でたゆたっていた陽炎が、突然に大きく揺らいだ。ただただ白いだけだった地表から
ガラクタの街と呼ばれる場所が、この風変わりな旅人たちを迎え入れた瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます