第4話 キノコお届け

 スイーツを配達するセーバースイーツで働くマナは、今日も相棒のアプリの指示を聞きながら、バイクをぐんぐんと走らせている。


「本日のご依頼は、

 キノコの森に住む

 魔女のマジョルカさん」


「日々、秘薬と魔法の開発に

 燃えている魔女ガチ勢の女の子で、

 森に籠もってずっと修行をしていた

 とのことですが」


「瘴気の影響で森が大変なことになり、

 外に出られなくなってしまった

 らしいのです」

 

「それで、大好きなスイーツが

 食べたくても食べられなくなり、

 誰でも良いので助けてください!

 とヤケクソで通信機を使っていたら

 偶然この店と繋がったらしいです」


「以上。振り返り終わり! 」


 妖精のアプリが、タブレットの中でだらだらしながら地図を指し、今回の依頼について解説していた。


「キノコの森って、文字通りただ

 キノコがいっぱい生えているだけの

 普通の森だと思うんだけど……」


「出られなくなったって……

 一体何があったんだろうね……」


「さぁ〜? でも正直嫌な予感が

 ビンビンするわね〜!

 あぁ~嫌だ嫌だ〜! キノコとか

 そんなジメジメした物、

 優秀なこのあたしには

 相応しくない物なのだわ〜! 」


「ちょっと……。もっと

 やる気出してよ……! 」


 タブレットの中でひっくり返りながら、とても優秀な人物とは思えない態度で地図を指差すアプリ。そんなアプリを尻目に、マナたちを乗せたバイクはどんどん目的地のキノコの森へと近付いていた。


「こ、ここが……!?

 キノコの森……!? 」


「げえぇ〜っ!? やっばいわこれ!

 マナさん、ちょっとこれ今日は

 諦めて帰りませんか〜っ!? 」


 マナとアプリの前には、巨大なキノコで埋め尽くされた森が広がっていた。魔界の瘴気とキノコの胞子が漂い、人間が足を踏み込めるのか怪しい状態になっていた…。


「諦める訳ないでしょ……!!

 この中ではマジョルカさんが

 スイーツを欲しながら助けを

 求めているんだから……!! 」


「まったくも〜! お仕事モードの

 マナちゃんは熱血女子なんだから!

 でも、そういうところがあたしは

 ちゅ、ちゅきなんだけど……♡ 」


「うわ……やめてよ何そのノリ……」


 アプリのハイテンションな悪ノリについていけずにドン引きするマナ。そして、意を決してバイクをキノコの森へと突入させた。


「けほっ……ごほっ……!

 本当に森の中、胞子がすご……

 ごほっ……! 」


「ちょ、ちょっと!? マナ、

 だ、大丈夫なのっ!? 」


「うん……。大丈夫……!

 な、慣れてきたから……! 」


「ほんとこの子は気合と根性だけは

 人一倍凄いんだから……」


「“だけ”は余計でしょうが……」


 マナがキノコの胞子を気合いでなんとかする一方、アプリはタブレットの中で胞子の影響を受けずにいた。


「……しかしこれ、

 見渡す限り巨キノコで、

 右も左もあったもん

 じゃないわね……」


「あたしの命センサーが

 あれば問題ないけど、

 普通の人間が出て来られなく

 なっちゃうのも頷けるわ……」


 森の中では地図も意味を成さず、マナはアプリが指差す方へひたすらバイクを走らせていた。


「……くくくっ」


「うひひひ……。あひひひひ……」


「……え? 」


 突如、不気味な笑い声が聞こえ、アプリは怯えていた。また以前の巨大サソリのような化け物が自分たちを狙っているのではないかと、警戒心を高めていた。


「だ、誰……? あ、あたしたちは

 食べても美味しくないわよっ!? 」


「あひひひひひひひひっ!!

 くひひひっ、あひひっ!! 」


「ヒッ……!? 」


 アプリが恐怖の余り目をギュッと閉じる。しかし、何も襲ってこない。恐る恐る再び目を開けるとそこには……。


「うひひひひっ! ど、どうしよ……!

 アプ、えひひひひっ!! 笑いが

 止まらなくなっ……あひひひっ!! 」


「えぇっ!? マナっ!?

 大丈夫!? 今めっちゃ

 キモいわよ、あんた!? 」


「き、キモいとか言う……

 げひひひひひひひっ!! 」


 キノコの胞子の影響を受け続けてしまったマナは、ワライキノコの毒の効果で笑いが止まらなくなってしまっていた。笑いも涙も止まらず、楽しそうな声とは裏腹にとても苦しそうだった…。


「はぁ……はぁ……! くひっ!

 うひひひっ! ……うぅっ!

 あひひひひひひっ……!! 」


「ま、マズいわね……。

 このままじゃマナは

 笑い死んじゃうかもしれない……。

 ど、どうすれば……!! 」


 アプリは記憶を振り絞る。シュカが受けていた通信機から漏れ聞こえていた依頼主の声からは、笑い声は聞こえて来なかったのだ。


「ここに住んでる魔女の

 マジョルカさんなら、

 何か対策を知っているかも

 しれない……!! 」


「ま、マナっ! 苦しいだろうけど

 もうちょっと頑張って……!! 」


「う、うん……うひひっ!!

 ごほっごほっ……えひひひ!! 」


 マナはなんとか呼吸を確保しつつ、アプリの指示通りバイクを走らせ続ける。


「あ、あるぇ〜〜〜? 」


「えっ……? 」


 また奇妙な声が聞こえ、アプリは今度は何事かと再び辺りを警戒する。そして、一番の心当たりであるマナの顔を恐る恐る見た…。


「なんれわたし、こんにゃ

 ところれ、はしってるん

 にゃろ〜〜〜? 」


 とろけた顔をしながら、マナは呂律が回らず意識も朦朧としていた…!


「ちょ、ヤバい!! マナ!!

 さらにキモいことに……

 ってそれどころじゃなくて!!

 しっかりして!! あんた今

 バイク運転してんのよっ!? 」


「うにゃ〜〜っ!? 」


「うわあああああっ!? 」


 バイクが転倒し、マナは前へ放り出された。ヘルメットを被り、地面は柔らかそうなので、怪我はしていなさそうだったが、アプリは心配でタブレットの外に飛び出したくなってしまう……。


「わ、私までキノコの影響を受けたら

 確実に詰むわね……」


 外に出たくても出られず、アプリはタブレットの中でオロオロしていた。マナは地面に倒れたまま動く気配がない。


「マ、マナ……。ど、どうしよう……。

 このまま胞子の影響を受け続けたら

 変な毒でマナ死んじゃうかも

 しれない……っ! うぅっ……!」


 アプリは自分の力だけではどうすることも出来なくなってしまい、涙が溢れてきてしまった。


「マナっ……!! お願いっ……!!

 目を覚まして……!! あんただけが

 頼りなんだから……っ!! 」


「あんたがいなくなったら

 あ、あたし……あたしは……

 う、うえぇ……ッ!! 」


 森の中で号泣し始めるアプリ。そんなアプリの元に、再び奇妙な音が聞こえてくる。


『ザッ……ザッ……』


「ひっ!? 」


「こ、今度は何よっ……!?

 なんであたしたちがこんな目に

 遭わないといけないのよぉ!? 」


 突如、謎の影がアプリの入っているタブレットを覗き込んた……!


「きゃあっ!? 」


「だ、大丈夫デスか!? 」


 そこには、いかにもな魔女の帽子を被り、真っ黒いローブを着た女の子が立っていた。


「ぜ、全然大丈夫じゃないわよっ!! 」


 自分たちの状況も知らず大丈夫かと聞かれ、アプリは激怒していた。そして、次の瞬間……。


「お願いしますぅ!!

 助けてくださいぃ!! 」


 全力の土下座で魔女コスの少女に助けを求めていた……。

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