第3話 仲間お届け

 魔導バイクでスイーツを届けるマナ。魔導タブレットでマナをサポートする妖精アプリ。スイーツを届けるセーバースイーツのメンバーは、もちろんこの2人だけではない。


 セーバースイーツの店舗にマナとアプリが出勤する前に、すでにそこでは他のメンバーがスイーツ作りの準備を進めていた。


「よし……。こんな感じかな……」


 出来上がった生地をオーブンに入れ焼き上がるのを待つ。すると、店の外から賑やかな声が聞こえてきた。


「マナ見て見て! 新しい

 タブレット買っちったの! 」


「いや……それもう何回も

 見てるんだけど……」


「うん! 何回も見せてるのっ!

 何故なら気に入っているから! 」


「あっそう……」


 マナがうんざりした顔をしながら、隣でタブレットを自慢し続けるアプリと共に店内に入ってきた。


「マナさん! アプリさん!

 おはようございます! 」


 真面目そうな前髪パッツンで眼鏡の少女が、マナとアプリに挨拶をした。


「あ、おはよう! シュカ! 」


「シュカおはよ〜! あ、ねぇねぇ!

 ほら見てこのタブレット! 」


「な、なんでしょうか……」


「ちょっと……シュカにまで

 絡むのやめなよ……。

 困ってるでしょうが……」


 その後ろからもう一人、少女が気配を消しているかのように静かに入ってきた。


「……おはよう」


「うわっいつの間に!?

 ……おはようロシェ! 」


「おはロシェ! ほら見て!

 タブレット! 新しいの買ったの! 」


「…………」


 黒髪ロングのクールな雰囲気の少女ロシェ。彼女の腰には日本刀が差してあった。そんな彼女にも同じように声を掛けるアプリ。……そして沈黙が訪れていた。


「え、えっと……。あ、あの……」


「……そう」


「……良かったわね」


 ロシェは無表情でさらりとアプリをかわすと、そそくさと自分のバイクの整備を始めた。


「ぷはぁ……。やっぱロシェに

 絡むのは難易度高いわね……! 」


 ロシェの威圧感に汗だくになるアプリ。毎回絡もうとしてこんなことになっていた。


 各々が営業開始時刻までに忙しなく準備を進める。マナとシュカとアプリでスイーツの準備を進め、ロシェは自分のバイクの整備が終わると、次はマナのバイクの手入れを始めた。


 そしてセーバースイーツが開店する時刻になる。ひっそりと街の郊外で営業しているこのお店には、瘴気の影響が少ない同じ地域に住むお客さんがぽつぽつと訪れ、マナたちはのんびりまったりとスイーツ店を楽しく切り盛りしていた。


 しかし、このお店が本領を発揮するのは、配達の依頼が発生した時である。


 店内専用の魔導タブレットに連絡が入る。シュカが通信を受けると、瘴気の発生しているエリアを超えて、セーバースイーツからだいぶ離れた自宅にスイーツを届けて欲しいという依頼だった。


 マナとアプリ、そしてロシェは、瘴気に耐性がある特異体質だった。彼女たちは、瘴気の中をお構いなしに突き進んでも瘴気に取り憑かれることはなく、スイーツを安全に届けられるのだ。


「……私が行く」


 シュカが注文の品を用意している間に、ロシェが通信機の残留思念を取り込む。その情報を元に、依頼主の命を感じ取りながら居場所を察知出来るようになるのだ。ちなみに、この能力は妖精のアプリが使っている力と同等の物だ。


「ロシェは一人で命を感じ取れて、

 バイクで配達もこなせるからほんと

 ハイスペックよねぇ〜……!

 しかもめちゃくちゃ強いし……。

 ……誰かさんと違って」


 アプリはチラッとマナの方を見る。


「おい、こっち見んな……。

 ロシェが凄すぎるんだよ……」


「まぁ、そんなロシェにも、

 料理が下手なのと、無愛想な態度

 という欠点があるけどねっ! 」


「…………」


「ヒィッ!? ごめんなさい

 ごめんなさい!! 命だけは

 お助けを〜っ!! 」


 遠くからロシェに睨まれ、アプリは飛び上がる。そのまま地面へ降りるとひたすら土下座をして許しを請うていた。


「じゃ、行ってくる……」


 ロシェが元気無くそう言うと、静かに目的地へと魔導バイクを走らせた。


「今日は私たちの出番は

 あるのかしら〜? 」


 アプリが暇そうに、どこから出したのか分からない謎のヘビのオモチャで遊んでいる。


 まだまだ知名度の低いセーバースイーツに依頼が来る頻度はそこまで多くなかった。同時に配達に行けるのがマナとロシェの2人だけなので、今の状態がこのお店にとっては一番ベストなのかもしれないが。


 瘴気に包まれている世界。そんな世界で誰もが暗い気持ちで過ごしている中、彼女たちは少しでも幸せな気持ちを届けたいと、今の仕事にやりがいを感じていたのだった。


 魔導タブレットに連絡が入る。注文を聞き終えると、シュカがマナとアプリに呼び掛けた。


「マナさん。アプリさん。

 配達の依頼ですよっ! 」


「よっしゃキタキターッ!!

 新しいタブレットの出番だぁ!! 」


 アプリが残留思念を取り込む。マナのバイクにタブレットを固定すると、その中に飛び込んだ。地図を取り出し、出発に必要な準備をいろいろと整える。


 シュカが荷台の配達ボックスに注文の品を入れ、マナはバイクに跨るとアプリに目的地を訪ねる。


「じゃ、行って来まーすっ!! 」


 マナとアプリは元気良くそう告げると、言い争いをしながら目的地へとひた走るのだった。

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