マジックエレベーター

さわいりお

第1話 全ての始まり

「なぁ、マジックエレベーター知ってるか?」

 六年三組、中休み。一学期が始まって数日しか経ってなくて、クラスはとてもにぎやか。窓辺で男子達話してる男の子達の話し声が聞こえる。

「あれだろ、心が病んでるやつとかの前に現れて、乗ると異世界に飛ばされるってやつ。どうせまた作り話の都市伝説か何かだろ」

「いや、本当にあるらしいぜ。俺の兄貴の友達の従姉妹の父親の弟の息子が見たって言った手らしいぜ」

「それ赤の他人じゃん」

 笑い声と共に話題が変わった。


 私の名前は石川夢奈いしかわゆめな、小学校6年生。新学期が始まってからまだクラスの子と話すのは小学校最後のクラス替えは見事に撃沈。幼稚園から一緒だった幼馴染の工藤美恵くどうみえちゃん髪型はいつも三つ編みおさげ。洋服も毎日雑誌やネットを参考に決めてるの。いつ誰に見られているからないし、みんなの憧れになれるように頑張ってるの!

 努力の甲斐あって、私は学校でも人気者。いつも周りに人がいる。騒がしいけど、まあいいの。だって──


「ゆ〜めちゃん!もうすぐ授業始まるよ。準備してないの?」

 三つ編みをしているクラスの女の子が話しかけてきた。そういえばこのクラスの三つ編み率、高めかも。

「やば!急いで準備しなきゃ。教えてくれてありがとう、えっと……」

菜々乃ななのだよ!も〜、そろそろ覚えてよね。」

 クラスの子の名前、覚えるのって大変。思い返せば、クラスメイトの半分も名前わからないかも。覚えることたくさん。頑張らなきゃ!

 

 ──キーンコーンカーンコーン


 中休み終わりのチャイムがなり、菜々乃ちゃんは席に戻った。


 私の大好きな算数の時間。ノートと教科書をランドセルからだして授業の準備。きっちり机の角に合わせて置くのが私のやり方。算数の先生は遅刻魔。教室に来るのはチャイムがなってから5分ぐらい経ってからかなぁ。


 教室のドアが開くと同時にクラスがざわついた。先生、ではなくスーツ姿の女の人が立っていた。

「夢奈ちゃん、行くわよ」

 それ以外は何も言わず、女の人は時計を見た。クラスの子達は私の方を見てる。

「あっ、はいっ!」

 私は急いで席から立ちランドセルに荷物をまとめ、ドアへ向かった。楽しみにしてた算数も受けれずに帰るのかぁ。ちょっと残念。

 私はスーツを着てる女の人と無言のまま昇降口へ向かった。靴を変えて、校門の前に停まっている車に乗った。女の人が運転手さんに行き先を伝えて、車が出発した。


「夢奈ちゃん、今日お仕事だって言ったでしょ。ちゃんと準備してないとダメじゃない。クランクインまで後30分しかないからね」

 車が動き出し5分ほど立った後、女の人が急に話し始めた。

「ごめんなさい。忘れてて……。マネージャーさん今日もお迎え、来てくれてありがとうございます」

「でも、夢奈ちゃんらしくないね、お仕事忘れてるなんて。今日は楽しみにしていた連続ドラマの撮影初日なのに。」

 多少はオシャレに気を遣っているけど、クラスメイトの名前すら覚えてない私が学校で人気者の理由、それは子役をやっているから。それ以上でもそれ以下でもない。


 ぼーっとしている内に車は撮影現場に到着した。車から降りてマネージャーさんと一緒にメイク室に行った。

「村野しずく役、石川夢奈です。本日からよろしくお願いします!」

 現場に足を踏み入れた瞬間からお仕事モード、オン。家や学校での石川夢奈ではなく、子役の石川夢奈に切り替わる。

 

 私は小さい頃から芸能界に憧れてた。元々ドラマや映画も見るのは好きだったけど、小学2年生の時、撮影裏のドキュメンタリーを見て演技に興味を持った。小学一年生の頃は、ドラマや映画は演技ではなく本当に起こってることだと思ってたのに。いつかは自分このキラキラした世界に入りたい。そんな思いで映画やドラマのオーディションをたくさん受けた。初めてのオーディションはもう無茶苦茶。自己PRがなにかもわからなくて泣き出しちゃたの。それからも諦めずに受け続けた。だけど、オーディションは簡単に受かるようなものじゃなくて、何十回、何百回も落ちた。それでも、諦めなかった。

 小学四年生の11月、人気学園小説映画化するからその主演と生徒役のオーディションが開かれることになった。マネージャーさんからこの話を聞いた時は受かりっこないから応募しないって答えた。だけどその日の夜、この映画の主演に合格して、毎日の撮影や取材、勉強との両立で苦労しながらも幸せな日々をおくっている自分の夢を見た。注目が集まる映画の主役は競争率がすごく高い。ただの記念受験になるかもしれないけど、チャンスを逃したくない、挑戦したい。お母さんやマネージャーさんに相談して書類を出すことになった。

 たぶん、全てはこの瞬間から始まったんだと思う。

 

 奇跡に合格した書類審査、ドキドキしながら一次審査の会場に向かった。一次審査会場には誰もが知っているような人気子役、今期ちょうど放送中のドラマに出演している子、中には私がエキストラ、つまりその他大勢として出た映画の主演を務めてたこまでいた。

 こんなにすごい子役ばかりの一次審査、なんで私がこんなところにいるんだろうって何度も思った。

 いつもオーディションでは、会場に着いた時は平気なのに面接になるといつもとっても緊張する。思った言葉がうまく出ない。でも、このオーディションはなぜか緊張しなかった。もう、絶対落ちるなって思ってたからかな。審査は自己PR、演技審査と順調に進んだ。もちろん大した実績がない私は他の子たちが自己PRで口にした、出演映画のタイトルや連続ドラマでの撮影経験を話すことができなかった。代わり、代わりにもなってないけど好きな食べ物や好きな映画。なんで女優さんを目指しているかも話した。

 他の人とは違うことを言って目立ったのかな。

 なんと、二次審査、三次審査と進み、最終審査まで受けることができた。この時はもう何かの手違いがあったのかと思った。

 最終審査まで残ったのは五人。しかも私以外はなんらかのドラマか映画で大きな役を演じたことのある子だった。審査は、監督、脚本家、そしてこの映画と元となった小説の作者を含めるたくさんの大人の前での実技。事前に家に送られてきた長い台本を暗記して、監督に言われたシーンを演じる。演技力はもちろんたくさんのセリフを覚えられるかのテストでもある。とってもも緊張したけど、自分なりのベストが尽くせた。あとは家で結果を待つだけ。数日後に合否についての電話ががかかってくるみたい。


 結果の電話がかかってきたのは三日後。お母さんが私に受話器を渡してくれた。

「もっ、もしもし、石川夢、奈です。」

 緊張しすぎて、声がうまく出ない。

「もしもし、夢奈ちゃん、まずは一次審査から最終審査までの長期間お疲れ様でした。オーディションどうでしたか?」

「あっ、と、とっても楽しかったです!あ、でも、とっても緊張もしました!」

 いきなり聞かれたから泡ってておかしなことを言ってしまった。

「そっか〜、楽しかったか。それはよかった!」

 私はここで落ちたかと思った。結果をなかなか伝えてもらえなくて感情がぐちゃぐちゃになって、泣きそう。

「それでは、結果をお伝えしたいと思います。オーディションの結果、石川夢奈さんを主役に抜擢します!おめでとうございます!」

 

 スタッフさんからオーディション結果を聞いた時の気持ちは言葉に表せない。嬉しさ、驚き、ありがたさに、怖さ、本当に色々な感情が混ざってた。

 撮影についての詳細を聞くためお母さんに電話を代わってからは自分の部屋にこもり2時間ぐらい泣き続けた。嬉しいはずなのに、涙が溢れ出した。


 これが私の始まりのお話。




 

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