魔女研編②:黒いスカート
放課後。
荷物をまとめた僕は、葉那に聞いたとおりの教室を目指して渡り廊下を歩いていた。場所は四階建て特別教室棟の三階、通路を突き当たった、二階とつながるこの渡り廊下からもっとも遠い空き部屋だった。
「とりあえず顔を出すことにはしたけど……」
正直なところ、あまり気乗りはしない。
生徒による主体的な活動を奨励するこの私立胡桃原高校にはたくさんの部活動や同好会がある。しかし中にはまともに活動しているとは言いがたい団体も存在する。
そこで毎年の文化祭開催にあたっては、催しとしてある程度の水準を保つため、団体出展に対する一定の基準が設けられていた。ちなみにテーマは公序良俗に反しない限りはかなり自由であるため、ハードルを越えてでも出展を望む団体は多い。
その基準のひとつが一定以上の人数による活動実態の届け出なのだが。
「魔女研がまともな団体である保証って、実のところないんだよな」
僕が知る限り葉那はまともな子だし、そんな彼女が所属する場所がそんなに変なところだとは思わないけど。それでも、一応の可能性を考えないわけにはいかなかった。
「はあ……」
それでもすっぽかすわけにもいくまいと、階段を一段ずつ上がって三階を目指す。
一段、二段、三段。
――そもそも魔女研なんて聞いたことがないけれど、どんな人がいるんだろう? 顧問は? 活動頻度は? このあたり、そういえば葉那に全然聞かないままだった。
五段、六段、七段。
――あれ、同好会に顧問って必要なんだっけ。僕自身、部活とか同好会にあまり縁がないので知らなかった。帰宅部であることに、これといって理由はないんだけど。一度気になり出すとモヤモヤするな。あとで葉那に聞いてみよう。
――五十段。
「あれ」
考え事をしていたせいか、僕は目的の三階を通り過ぎ、校舎の四階まで上がってしまっていた。階段はまだ続いているが、この先にあるのは立ち入り禁止の屋上だけだ。
しまったと思いつつ踵を返そうとしたそのとき、僕がいたところよりもさらに上で、床をこする上履きの音がした。
「……?」
誰かいるのか?
首を持ち上げると、視界の端にはためく黒い布と、そこから伸びる細い脚が見えた。
「スカート……?」
思わずそんな声が漏れた瞬間、黒いスカートはまるでもやのように消えてしまった。
「えっ?」
自分の見たものが信じられなかった。
僕は考えるよりも先に、本当ならどこにも行けないはずの屋上への階段を駆け上がっていた。しかし、その先にはいかつい鍵のかかった扉があるだけで誰もいなかったし、黒いスカートと見間違えるような何かもありはしなかった。
「……?」
本当に、何もない。
そこにあるのは場違いな迷路に入り込んだ自分の、上がりきって乱れてしまった呼吸だけだった。
「気のせい、か……?」
僕は狐につままれたような――あるいはいたずら好きの魔女にだまされたようなすっきりしない気持ちで、本来の目的地である三階に向かった。ただ、不思議とそこに恐怖はなかった。
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