ふたりぼっち
きつね月
第1話 ぼっち女子
ある秋の日の放課後。
学校帰りの私は一人でいつもの公園にいた。
一緒に遊ぶ友達がいない、というのは、どう言い訳をしても「寂しい」に分類される類いのものだ。その寂しさを味わえるようにでもなれればいいんだけど、残念ながら私はそうなっていなかった。
しかし家に帰るにはまだ早い。そうなるとこういう公園とかで時間を潰すことになる。ベンチに座って本を読むふりをしながら、砂場や滑り台で遊ぶ小さい子供たちとか、それを見守る親の姿とかを眺めていると、少しは気が晴れるような。
『……』
『……ねえ、
『……な、なに?』
『どうして友達でもないのに、私たちの
『……え』
―――もう一ヶ月も前のことなのに。
嫌な記憶というのはどうしてこうも不意に現れたりするのだろう。せめて事前に注意をしてほしい。じゃないと日常生活に支障がある。
私は本を閉じて秋晴れの空を眺める。キンモクセイの香りがする風が吹いて、つんと痛んだ私の鼻から肺にかけてを冷やしていった。
(……ん)
ふと気がつくと、向かい側のベンチに女子が座っていることに気がついた。
見慣れない制服を着た見慣れない人だ。しかしそれよりも目を引いたのは、
(……大きいなあ)
座っていてもわかる。
身長が180センチぐらいあるだろうか。高校生だとしても破格なサイズのその女子は、大きな身体をそわそわと揺らしながらベンチに座っていた。
私はそんな見慣れぬ女子の姿をぼーっと見ていた。
すると女子はさらにそわそわし始め、そして突然うずくまって、
「―――はっくしょーんっ!!」
地面に向かって大きなくしゃみをした。
それがあまりに大迫力だったので私は飛び上がってしまう。
地面がびりびりと揺れて、子供たちが作っていた砂の大山がひとつ吹き飛んだような気がした。
「……」
「……」
空気がしん、となる。
女子は自分が周りにいる人たちの視線を集めてしまっていることに気がつくと、恥ずかしそうに俯いて逃げていった。大きな身体を丸めて歩くその姿がやけに印象深かった。
その日はそれだけ。
しかし女子は次の日もそのあとも公園に来た。
前回の反省したのかもう目立たないようにしていたけど。公園の隅にある自動販売機を眺めていたり、色が変わり始めたイチョウの葉を一枚取ってみたり、公園の入り口に建てられた謎の置物の前でハテナマークを浮かべていたり、おおよそ最近の女子学生らしくないことを繰り返していた。
そんな様子の女子を、公園の常連たち(主にお母さんたち)は始めこそ不審そうに見ていたけれど、やがて一週間も経った頃には誰も気にしなくなっていた。広い公園だし、その隅っこの方で彼女が何をしていようと見過ごせてしまうぐらい、女子の様子は無害なものだったのだ。
「……」
しかし私は違った。彼女のことが気になっていた。
そもそも私がこの公園に来ている理由は時間をもて余しているからである。女子に害がなく、いつも公園に来られるぐらい暇であるというのなら、是非話し相手くらいになってほしいなあ―――という気持ちを込めて彼女のことを見続けていた。
しかしまあ、友達がいなくて一人で公園に来ている私のことである。いきなり彼女に話しかけたりはできない。だからじっと見ていた。花壇に咲いているヒガンバナやリンドウなんかを眺めていたり、自動販売機の前で名残惜しそうにしながら結局なにも買わない、そんな女子の姿を。
女子はいつも日暮れと共に帰路についた。
それを追いかけてみようかなと思ったのはだから、ほんの出来心だったのだ。
「……」
友達でもない人の後を追う、というのは、どうやら私の癖であるらしい。
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