蝋燭小屋の密室 小林声最初の事件
第62話
貧乏暇なしという
俺が横浜の
大学卒業後、特にこれといってやりたいこともなく、無資格で名乗れるのをいいことに見切り発車で始めた探偵稼業だったが、ドラマや小説のように上手くはいかなかった。
このままでは誰にも気づかれずに事務所のソファの上で干乾びて死ぬ未来が待っている。
依頼人第一号が現れたのはそんなことを考えていた矢先だった。
〇 〇 〇
依頼人、
「単刀直入に申し上げます。探偵さんにお願いしたいのは、密室殺人のトリックを解いて戴くことです」
「……密室殺人?」
俺はそれを聞いて
密室殺人といえば、推理小説ではお馴染みの不可能犯罪の代名詞と言っても過言ではない題材だが、そもそも俺には密室の何が面白いのかがわからない。何度も見て見飽きた手品のタネが少し違うからといって、それがどうしたという感想しか出ないのだ。
そもそも密室状況を作ったからといって、それ程犯人にとってメリットがあるとはどうしても思えない。効果としては精々自殺の偽装を補強するくらいしかないだろう。密室殺人とは、所詮はフィクションの中でしか起こりえない犯罪なのだ。
そのフィクションの中でしか起こりえない犯罪の調査の依頼を、俺は今実際に受けている。
およそ現実とは思えない。きっとこれは夢か何かだろうと考えるが、丸一日何も食べていない空腹感は悲しいほどに現実だった。
「……あの、その事件は現在も警察が捜査しているんですよね?」
俺がそう言うと、日浦香子はハンカチで目元を押さえた。
「殺されたのは娘の
「……そうですか」
俺は気が進まなかった。俺は殺人事件が嫌いだ。それも密室殺人などというふざけた事件になんか関わりたくはない。しかし、折角舞い込んだ依頼だ。食っていく為には依頼を引き受けるしかない。背に腹は代えられないのだった。
「……遥さんはどういう状況で亡くなっていたのですか?」
「
「……ふーむ」
その情報だけでは自殺とも他殺とも判断がつかない。
やはり、一度現場を見なければならないだろう。
「分かりました。それでは早速これから調査に伺いましょう」
よりによって、最初の依頼が密室殺人とは。
――ついてないにも程がある。
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