ゼロカフェ!〜×××な夢乃兄弟はオモテナシしたい〜

みやこ。@コンテスト3作通過🙇‍♀️

プロローグ

開店準備




 とある国のとある街の外れにひっそりとたたずむ古びた洋館。元は貴族が暮らしていたその建物には、ウワサのイケメン兄弟たちが営む、密かに人気のカフェがありました。





「ユーマ。開店準備は進んでいるのか?」



「兄ちゃん」


 落ち着いた低い声でユーマの名を呼んだのは、兄である夢乃ゆめのトーマだ。

 トーマは兄弟で経営するカフェのパティシエで、彼の作るスイーツは見た目も華やかでグルメも舌を巻くほどの絶品である。

 しかも、そんなスイーツが罪悪感も無くタダで食べられると聞いては、トーマの作るスイーツを求めて来店する客が後を立たないのだった。



(まあ、ホントはタダじゃないんだけどね)


 ユーマは心の中でペロリと舌を出しておどけて見せる。



「もうすぐ終わるよー! 後はテーブルを拭いて、看板出すだけっ。兄ちゃんはもう終わったの?」



「ああ。仕込みは既に終わってる」



「さっすが兄ちゃん! 終わったならこっちも手伝って欲しいなー⋯⋯なーんて」



「⋯⋯仕方ない、今回だけだからな」



「ありがとう、兄ちゃん! ⋯⋯でも、昨日もそう言って手伝ってくれたよね」


 ユーマがクスリと笑いながらそう言うと、トーマはムッとした顔でこちらを見る。バイオレットの瞳がわずかな怒りを含んでいた。



「そんなこと言うなら手伝わないぞ」



「わー! うそうそっ! 今のは忘れてっ。お願いだよ、兄ちゃん」



「全く、お前は⋯⋯」


 ユーマが得意の人懐っこい笑顔で懇願こんがんすると、トーマはため息を吐いた後、フッと笑みを見せた。



「兄ちゃんってば、せっかくイケメンなのに勿体もったいないなあ。そうやってもっとお客さんの前でも笑顔を見せれば、このカフェももっと繁盛はんじょうするのに」



「女性はあまり得意じゃないとお前も知っているだろう。それに、ユーマだけで事足りてるから問題ない」



「確かに、兄ちゃんまで出て行ったら女の人たちが大騒ぎして仕事どころじゃなくなるかぁ」


 ユーマは熱心にテーブルを拭くトーマの姿を見る。真白なコックコートを身にまとったユーマは、長身でスラリとした体躯たいくつややかな黒髪、涼しげな紫の瞳。スッと通った鼻筋と、薄い唇から発される声は心地良く、どんな女性をもとりこにする。




「終わったぞ」


 ユーマがぼうっとトーマを見ていると、横からそんな声が聞こえてきた。



「わ、仕事が早いなぁ。ありがと、兄ちゃん!」



 ユーマは一通り準備が整った広い店内を見回す。元は貴族が使っていた屋敷なだけあって、テーブルやイス、シャンデリアや壁掛けの時計など調度品はどれも一級品ばかりだ。


「テーブルクロスはシワ一つないし、シルバーもピカピカに磨いた。メニューも定位置に置いてあるし、もちろん床にはちり一つない」



 最後の点検を終えたユーマは意気揚々いきようようと扉を開ける。外に出ると、痛いくらいの日差しがユーマを照らした。



「よしっ、今日も一日頑張りますかっ!」


 そう言って、ひとつ伸びをしたユーマは、くるりと看板をcloseからopenへと裏返した。





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