辞書の地球は異世界

ハミカミ

第一話 辞書

 【木本 慶】は友人から頼まれた辞書にミスがないかを探す。”ゆっくりとのめり込む様に”。

他人がその姿を見たらきっとこう思う。


「気持ちの悪い猫背のおじさん」


だが彼を知る人物はこうに見る。


「生真面目でバカなおじさん」


彼は頼まれ事を断らない。故に彼は世間一般に善人と呼ばれる人であり、今も無償で辞書にミスがないかを”ゆっくりとのめり込む様に”見ている。

ゆっくりとページをめくりミスがないかを入念に辞書を見比べながら探している。すると【地球】の欄に明らかな間違いが見られた。その内容に彼は困惑する。


『地球は~...ファルテミア大陸があり~...』


そこには知らない惑星、知らない大陸などの動植物の特徴が書かれている。そこを何度も指が往復する。さらに強く困惑する。


『さすがにこれは作りがずさんすぎないか?...』


ふと彼はファルテミア大陸を辞書で引いてみる。当然とばかりにその大陸は出てくる。そして知らない動植物、知らない国家などの内容が書かれている。

そこで彼の集中が切れ、時間を確認すると0時を回っていた。


「いい加減寝るかぁ、明日にでもこの辞書はおかしいと伝えようか」


彼は小さく呟き眠りにつく。



疲れた顔で彼は起きる。朝一番にコーヒーを煎れ、その待ち時間に朝食の準備を行い、そして朝食を食べる。諸々の準備を終わらせ家を出る。何十年と続けているルーティーンだ。だが今日は少し違った。


靴を履いていると彼はふと思い出す。


『そういえばあの辞書を鞄に入れてなかったな』


靴を脱ぎ部屋に戻ると机に辞書が置いてある。彼は辞書に手を掛け持ち上げようとすると辞書は床に落ちた。するとその拍子に開かれる。辞書を拾い上げ、開いてあるページを見ると。それは【日本】の欄だった。なんとなく日本の欄を見ていくと、その内容は常識的に日本を説明したものではなかった。


『そういえばこの辞書は作りがずさんなんだったか』


辞書を閉じ鞄に入れ、靴を履き、ドアノブに手をかけ扉を開ける。

そして眼前には見知らぬ景色が広がっていた。

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