カルテ243 伝説の魔女と辛子の魔竜(後編) その24
「ちなみに今話した血液の様々な働きについては、僕の世界の漫画……まぁ、本の一種ですが、『はたらく細胞』ってのに詳しく描いてありますが、あの話に出てくる白血球はやけに長生きなので、顆粒球じゃなくてリンパ球っぽい気がしますね。もっとも僕的には白血球お姉さんが巨乳な『はたらく細胞BLACK』の方が……」
「先生、とっとと話を軌道修正してください。いつまで経っても元の世界に戻れませんよ」
冷酷非情な声が再び室内に響き渡り、愚かな医師は肩をすくめた。
「すいません……多分、無駄話をしないと生きていけない病気なんですよ、僕って」
「だったらとっとと死んでください」
「あ、あの、お取込み中のところ申し訳ありませんが、結局は息子の病気は四つのうちのどれに当たるんでしょうか?」
すっかり蚊帳の外の依頼主が、果敢にも説教中に口を挟む。
「おっと、そうですねー、先ほどセレちゃんが持ってきてくれた採血結果では、白血球が著明に増え、逆に赤血球と血小板がものすごく減っており、更に芽球の存在も確認されたので、白血病とは矛盾しません。本当は骨髄検査が出来れば確実な診断がしやすいんですけど、残念ながら当院の設備じゃそこまでは無理なんでごめんなさいね、村長のとっつぁん。でも、統計から言えることもありますよー」
本多は手のひらに隠れるほど小さい採血結果の紙を白衣のポケットから取り出すと、ひらひらと振ってにんまりする。
「と……とうけい?」
「今までの白血病患者の内訳みたいなもんですよ、村長さん。小児の白血病ってのは大人と違ってそのほとんどが急性白血病なんです。ちなみに急性白血病の症状は、正常な白血球が減ることによる感染症……つまりは風邪や肺炎などですね。また、赤血球減少に伴う貧血や、血小板減少のため生じやすくなる出血などもあります。坊ちゃんが動悸が起こりやすくなったっていうのは、多分貧血のせいでしょうね。もっともこれらの症状は慢性白血病でも起こることはありますが、あっちは経過が非常にゆっくりで、数年単位と言われます。だから、急性白血病と断定して、ほぼ間違いないと太鼓判押しますよー」
「でも先生、急性白血病は更に急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病に分かれるのではないのですか? 両者はだいぶ違うと思いますが」
突っ込むのが自分の使命だとばかりに、セレネースが割って入る。しかし本多の得意気な様子は揺らぐことなく、薄い笑みを浮かべていた。
「また鋭いところを突っつきますね、セレちゃんったらー。いやーん、まいっちんぐ! もしくはボコメン! でもモーマンタイ! 統計はまだまだ使えますよー。実は小児の急性白血病の八割は急性リンパ性白血病なんですよ。大人ではなぜか急性骨髄性白血病の方が圧倒的多数なんですけどね」
「……でもそれだけで、本当に急性リンパ性白血病と言えるんでしょうか?」
今まで黙って聞いていたエナデールも、ようやく話の理解がはかどったためか、大胆にも議論に参戦した。
「いやいやブラックレディーさん、もちろん他にも根拠があります。ちなみに有松は金沢市の南部!」
「一回本当に死にますか、先生?」
白亜の建物の守護神が右手を曲げて上段受けの構えを取りつつ開手し手刀を形作る。
「そそそそれだけはご勘弁をお代官様!」
本多は壊れた扇風機のようにブルンブルンと首を横に振り回して謝罪した。
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