カルテ240 伝説の魔女と辛子の魔竜(後編) その21
「わわわ、エリザス、なんでまたメデューサに変身しているニャ!」
「よ……夜目が効かなくて逆に助かった……」
「どっちにしろこっちからじゃ後ろ姿しか見えんぞい、ってありゃ……ドラゴンか!? うがあああ! 何が望みだ!? 身体か? わしの鍛え抜かれた身体が望みなのかぁ!?」
「ちょっとは落ち着きなさい、三人とも!」
オチャラケ三人組は常軌を逸した眼前の状況に脳がついていけず、しばらく蜂の巣をつついたようになっていたが、ようやくエリザスの人化が成功したためもあり、騒動は次第に鎮静化した。
「すいませんニャ……でも、エリザスの様子が何だかおかしかったから、心配になってつい後をつけてしまったんだニャ。村長さん親子にお留守番はお任せしたニャ」
「てかお前、二人の内緒話が気になるから尾行しようとか言ってなかったか?」
「それは最初にこの腐れドワーフが言い出したんだニャ!」
「こりゃ、人のせいにするでない! お主もノリノリだったじゃろうが……」
「そもそもダイフェンだってサーガが書きたいからついていくって嬉しそうだったのに……同罪だニャ!」
「それはお前が焚きつけるからだろうが!」
「……まあ、大方の事情は呑み込めたわ」
エリザスは眉間を指で揉みながら、冷たい岩の上に仲良く横一列に並んで正座して反省(?)する愛すべき仲間たちを見下ろして、嘆息した。今度から秘密の会話はこいつらを石化してから行おうかしら、などという凶悪な考えがちらりと頭をかすめるが、とりあえず異次元にうっちゃっておいた。
「……どういたしますか、エミレース様? このエリザス様以外の招かざる客人方にはお引き取り願いましょうか?」
主人に忠実な執事の如く、エナデールが天井付近にある竜の首を見上げ、お伺いを立てる。
「そうね、本当は可愛いエリザスとだけで水入らずでゆっくり話したかったんだけれど、お友達の皆さんもこうなったいきさつは知りたいようですし、エリザスと私の関係はとっくにご存知のようですし……」
銀竜は困ったような表情をするも、口元は微かにほほ笑んでいた。
「知りたい! 是非とも教えてくれ美人のドラゴンさん! 俺は壮大なサーガを作りたいんだ! そして偉大なる作詞家兼作曲家ダイフェンの名を後世に……」
「こらバカ旦那、これ以上余計なことほざくニャ! 髪の毛で串刺しにされてお昼ご飯にパクッと喰われたいのかニャ!?」
「なんか魚の串焼きみたいでちょっと美味そうだのう……昼飯まだだし」
「あ、あんたらねぇ……」
現在絶賛反省中のはずの三バカトリオが口々に口を挟むので、エリザスは軽い頭痛を覚えた。
「フフフ……吟遊詩人さんに唄にされてしまうのは困りますけれど、絶対に他言しないと誓っていただければ、全てを包み隠さず語りましょう」
「え……人名や地名は実在しない架空のものに変更するからそこをなんとか」
「ダイフェン!」
暗闇に殺気を孕んだ猫目が光る。
「わ、わかったって……誓います」
ようやく諦めがついたのか、渋面を作りながらもダイフェンが折れた。
「ご理解いただけて感謝します、吟遊詩人さん。では、話がついたということで、早速ですが、一つエナデールに頼みたいことがあります」
大いなる銀竜がまたもや右眉を微かに上げる。エリザスは何やら胸騒ぎを覚えるも、ここは姉を信頼して任せようと、丹田に力を込めた。
「はい、何用でしょうか、我がマスター?」
抑揚を感じさせない声で答えるエナデールが、竜の赤い瞳をじっと見つめる。ただならぬ雰囲気を感じ、一同は思わず息を呑んだ。
「ではエナデール、皆さんの前で、服を脱いでください」
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