カルテ187 運命神のお告げ所(後編) その3
「誰だっ!?」
思わず怒鳴り声を発するも、もちろん返事などなく、後ろを振り向く暇もなく更に石つぶてが彼を強襲する。
「やれやれ、なるべく穏便に済ませたかったのだがな……」
霰の如く拳大ほどもある石の雨がケルガーに降り注ぎ頭部を滅多打ちにするも、彼は避けようともせずに、虫でも刺したかのようにポリポリとフードの上から頭をかいた。
「変ですね、全弾命中しているのにダメージを受けている様子がありません、テレミンさん」
「ええっ、そうなんですか、ダオニールさん!?」
猛る風車のように腕を動かしながら投石を続けるダオニールのいぶかし気な発言に、側で隠れて息を凝らしていたテレミンは、つい声を上げてしまった。宿泊所を出た後彼らはダオニールの嗅覚でもってダイドロネルの後を追い、ついに大男の元までたどり着いたのだった。ちなみに現在夜空は雲が広がり星一つ見えず、敵に気づかれないようランプの上に覆いを被せてあるため、暗視能力のないテレミンには、敵の詳細はよくわからなかった。
「お静かに、テレミンさん。ひょっとしたら、フードの下に兜か何か装着しているのかもしれませんね。しかし、さっきから気になるのですが……」
「どうしたんですか?」
「かなり奇妙なことですが、あの男から濃厚な生きた牛の臭いが漂ってくるのです」
「う、牛いいいいいいっ!? そこんな高山のてっぺんに、そんなもんいるわけがないじゃないですか!?」
先ほど注意されたにも関わらず、またもや絶叫するテレミンに対し、さすがのダオニールもしばし手を止め、やや渋面を作る。
「まあ、どうせこちらの位置はあちらさんにもばれているでしょうから構いませんが……もしかすると牛の獣人かもしれませんよ」
「そんなの聞いたことがないですよ! 自慢じゃないですけど、これでも全ての種族を知っているつもりです!」
「確かに穴兎族をご存知のテレミンさんの仰ることなら信用に値しますね。でも、獣人ではないとしたなら、奴は一体……!?」
「どうした、それでもうおしまいか? ならばこちらからいくぞ。グモオオオオオーッ!」
鉄壁をも砕きそうな雄叫びと共に、ケルガーは傍らにあった人間大ほどもありそうな大岩を軽々と片手で持ち上げると、無造作にテレミンたちに向かって放り投げた。
「うわあああああっ!」
「危ない、テレミンさん!」
すんでのところで岩の下敷きになりそうだったテレミンを、人狼化したダオニールが素早く抱きかかえ、疾風怒濤の速さでその場を離れた。直後、深夜の山道に激しい衝撃が走り、砂埃がもうもうと舞い上がる。
「ほう……貴様人狼族だったのか。とうの昔に絶滅したと思っていたんだがな。どうりで暗闇でも俺を正確に狙い撃ちできたわけだ。こいつは面白い」
大男は何事もなかったように袋を担いだまま、クックッと喉を鳴らした。
「そういうあなたは一体何者ですか? 私と同じくこの闇の中でも灯りを必要としないところを拝見すると、ただの人間ではなさそうですが……」
「わかった!」
人狼にお姫様抱っこされたままの少年が、ポンと両手を打った。
「ミノタウロスだ! 昔本で読んだことがある! 人肉を喰らう怪力の獰猛な魔獣だと書いてあった! そうでしょ!」
「ほう、よく知っているな、小僧」
大男が感心したようにつぶやくと、返事代わりにバサッとフードをはねのけた。
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