月の灯台
からすば晴
1/灯台守
『月の光源は
そんなことはこの国の常識で、幼年院に通う子どもだって知っている。
「なら灯台守の私はもっとちやほやされたっていいと思うのよね……」
人生でもう何万回目かになる恨み言をこぼしつつ、カサリは《れいごうじゅ》霊合樹の炭が入ったバケツを床に置いた。
大きな部屋の中には、似たような容器がいくつも置いてあり、中央の燃室にくべられる時を待っている。壁にかけられた時計を見ると、もう“朝”の伍刻を半分も回っていた。
「うわ、もう“月の出”の時間じゃない!」
カサリは急いで燃室の扉を開き、炭を放り込み始めた。ある程度の量が入ったところで《かすみちょう》霞蝶の鱗粉を固めた燐寸を擦り、放り込む。しばらく経つと青白い炎があがった。十分に火勢が強まったことを確認し、扉を閉める。
燃室から放たれた光が、塔の上部に開いた穴から上空に放たれる。
ややあって、上空の月に淡い光がともった。
「……よし、時間通り」
カサリはほっと息をつく。
建国から約千年、天文省から渡された月暦は一度も破られたことがないという。もし自分が仕事を違えてしまったら、どんな恐ろしい罰が下されるかわかったものではない。
気が抜けたからか、腹部がきゅるると音を立てた。厨房に行って朝食にしようか。そう思った時――。
「食べる?」
突如、目の前に球体が出現する。反射的に手に取ると、それは林檎であった。大きくてずっしりとして、実に美味しそうな……いやいや、そんなことを考えている場合ではない、とカサリは周囲を見渡す。
「やぁ。おつとめ、ごくろうさま」
林檎を投げたと思しき、ひとりの少女がひらひらと手を振っていた。
「……あなた、誰?」
やたらと装飾の入った服を着た少女である。年頃はカサリと同じ、17か18くらいだろか。黒い外套に、これまた黒い円筒型の帽子。片手で数えるほどしか見たことはないが、貴族の男性が着ていそうだな、とカサリは思った。
好奇と不審の入り交じった視線を受けて、少女は不敵に笑う。
「私はスィヌ。月を盗みに来た怪盗だよ」
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