第5話
翌日。ある種の覚悟を決めてビクビクしながら登校したものの、教室やクラスメイト達は特に何事もなかった。一番の懸念だった柊からもリアクションはない。
時間だけが過ぎていった。
(あれ?)
不思議におもって柊を観察めいた視線を投げかけ、時折目が合うことはあっても、昨日のことなんてなかったように逸らされてしまう。
(おかしい。なんでだ? なんで柊はなにもしてこない?)
クラスメイト達が普段どおりなのはまだわかる。柊が誰にも漏らしていないということだから。けど、本人がいつもどおりなのは明らかに不自然だ。
(・・・・・・・・・・もしかして)
柊は昨日のことを現実だとおもってないんじゃないか?
それか見間違えたとか、倒れた衝撃で頭を打ったと勘違いしたとかできちんと俺の姿を認識できていなかったんじゃ?
うん、そう考えるとしっくりくる。
冷静になれば、まず同級生が人狼になった姿を突然目撃したとして、それを正しく受け入れられるか?
俺だったらまず自分の正気を疑うんじゃないか?
うん、そうだ。だとすれば柊がなにもリアクションをおこしてこないのもわかる。
そんなことを考えていて上の空だったからか、トイレから戻ってきたとき、件の柊とばったりぶつかりそうになった。つい驚きすぎて人狼になってしまうかとおもった。
「通りたいのだけど」
「あ、はい」
数秒の間視線が交錯するが、横にずれた。擦れ違うまでにそれとなく観察するけど、やはりなにもない。俺に対するどんな感情も見てとることはできなかった。
(これは、やっぱりそうなんじゃないか?)
(俺が勝手に不安になりすぎていただけ?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
(そりゃあそうだよな)
同級生が人狼だったなんて、まず信じられるわけがない。
自分の見間違いか頭がおかしくなったかのどちらかを疑う。それも睡眠を挟んで一日経過してしまえば、その気配は強くなるだろう。
(まったく、俺ってば心配性さん! 人狼だからってナーバスになりすぎてただけじゃないか。はっはっは)
いや~、よかったよかった。一時はどうなるかとおもったけど、これですっきり解決。安心していつもどおり過ごせるぜ。
やれやれと次の授業の準備を始めようと鞄に手を突っ込んだ。
「ん?」
ノートと教科書の隙間に、きちんと折り目良く畳まれたノートの切れ端が挟められていた。なんだろう。こんなのあったっけ?
『お昼休憩のとき、体育館裏まで来て。誰にも見られないように。話したいことがあるの』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どこからどう見ても手紙だ。それも呼び出しの。問題なのはそこじゃない。後に続く文面と差出人を、何度も確認してしまう。
けど、どれだけ見直しても変わらない。以外と丸っこくて可愛らしい書き方だけど、
『昨日のあなたのことで。柊美音』
「だよね~~~~~~~~・・・・・・・・・・・・」
独り言は誰にも拾われることなく、教室の雑踏に呑まれて消えていった。
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