第11話:修理ですが、サービスしてもいいですよね?
店の前で、うろうろしている人がいますね…うちに用があるのでしょうか…
あっ…どこか行ってしまいましたね…特に用と言ったわけではなかったのでしょうか…
翌日…また来てますね…泥棒の下見でしょうか…ちょっと気になります。
「ミリー、あの人にそれとなく声でもかけてきてくれるかしら?」
『はい、かぁさま。』
「ねぇ、ミリー…声をかけるのはあとでいいわ。ちょっと工房まで行きましょうか、あなたのメンテナンスを先にしようと思うの。」
『ひ、必要ないですよ、マスター…』
「そうですか…なら、声をかけてきて下さい…」
『こんにちは。おじさんは泥棒でしょうか?それで、今日はその下見ですか?』
あ、あの娘…なんて聞き方してるんですか…あまりにストレートすぎるでしょう…やっぱりメンテナンス…オーバーホールの方がいいかしら…
「い、いや…違うんだ…」
『悪い人はみんな、否定するものですよ?』
「人形の館のサーリアさんに用があってだな…」
『なんだ、かぁさまのお客さんですか…そんな所をうろちょろしないで、さっさと店に入ってくるといいですよ。』
本当に全部のスキルを入れ替えてやりたい気持ちですよ…
『かぁさま、お客さんらしいです。』
「あはは…とんでもない言われ方をしてしまったが…不審がられても仕方がなかったからな…」
「いらっしゃいませ。私がサーリアですが、どの様な要件でしたでしょうか?」
「実はだなぁ・・・」
どうやら他の人形師の作ったドールが故障してしまったようなのです。その人形師はもう亡くなっていて修理をして貰う事が出来ないそうなのです。
「それで、私の所に来られたのですか…」
「はい…無理なお願いとは思いますが、修理をしてもらうわけにはいかないでしょうか。」
他の人形師の作った人形の修理ですか…他人の作品に手を入れるのは好きではありませんが、修理と言うことなら仕方ありません。
「わかりました。修理できるかどうかは見させて頂かないと返事が出来ませんよ。」
「よろしくお願いします。」
「修理にしても設備が必要ですので、ここまで持ってきて頂かないといけませんよ。」
「そうか、わかった。すぐにもってっくる…」
近くまで持ってきているのですね…なんにしても直せるかどうかはわかりませんけどね…
「えっと…故障とか言うレベルではないと思うのですが…」
左腕が肘の辺りからもげてますよ…こんな状態からだと1度バラさないと難しいですね…一から作り直すのとたいして変わりませんよ…
「私の代わりに木の下敷きになってしまってね…」
なるほどその時に折れてしまったというわけですか…
「差し支えなければ、どちらの人形師が作られたかお聞きしてもいいですか。」
人形師には系統というのがあって、次の世代に技を継承していくのですが、私の系統に近い人だと良いのですが…お義父様の系統はだいたい把握していますから同じ系統だといいですね…
「スカーレットという方だったと聞いている…」
確かそんな名前の方がいましたね…ずいぶん昔の方だった気がします…
「わかりました、詳しく見てみないとはっきりしたことは言えませんが、多分何とかなると思います。」
「そうですか…ではお願いしても良いだろうか…」
「ええ、2、3日したら1度立ち寄って頂けますか?修理の見積もりと細かい打ち合わせをしたいので。」
「では、その頃にまた寄らせてもらう。銀の小熊亭に泊まっているので何かあったら訪ねてもらえるだろうか?」
「わかりました。銀の小熊亭ですね。」
「ミリー、この子を工房に連れて行ってもらえる?」
『はい、かぁさま。』
「ミリー、何回言ったらわかるのかしら…マスターって呼びなさいと言っているでしょ?」
『むぅ~わかりました、マスター。かぁさま、これでいいですか』
直してないじゃないですか…今日のところは諦めましょう…
「早く工房に連れて行ってあげて…」
工房の人形用のハンガーに掛けましょう…肘の断面辺りから見ていきましょう…
完全に潰れてますね…古い人形なので骨組みが木で作ってあるのでしょうか…それとも廉価版なのでしょうか…骨組みの木もだいぶ傷んでますね…スカーレット様が作者であるなら200年は経ってますね…人形も劣化するのですよ。ある程度メンテナンスをしてやらないといけないです…
ただ繋いで、動くようにするだけなら金貨50枚程度で請け負いましょう…同じ系統の人形師ですし…
ただ、これから何十年と使い続けるのであれば骨組みの入れ替えが必要です…そうなるとかなりの金額ですね…新しく作るのとたいして変わらない手間ですから…
『かぁさま、この間のストーカーが来ましたよ。』
み、ミリーなんて事を言うんですか…
「いらっしゃいませ、修理の件で色々とお話しさせて頂きたいと思いますのでこちらへどうぞ。」
ミリーのせいでお客さんが顔を引き攣らせているじゃないですか…奥のリビングにお通ししましょう。
「ミリー、お茶とお菓子をお願い。」
『はい、かぁさま。』
この子直す気がないですね…
「修理の方針を決めたいのですが…」
先日見たことをそのまま話しましょう…金額のことも含めてです。骨組み入れ替えとなると素材によって金額が変わりますからね…
「そんなにかかるのか…」
「人形って、繊細ですからね。結構かかるのですよ。」
「これからも我が家で働いて欲しいと思うのだ…金貨200枚で出来るところまで頼みたい。」
どこかの貴族か、豪商でしょうか?金貨200枚をぽんと支払うなんて…
「わかりました。とても大切にされているのですね。その金額で出来るところまで直しましょう。」
「もしそれ以上かかりそうなら、連絡が欲しい。工面できるものなら工面したい。」
どうやら直るまでこの町にとどまるのだそうです…
本当にこのドールに愛着があるのですね…わかりました。工賃抜きで徹底的に直して差し上げましょう。今回は直系の人形師ではありませんが同じ系統の人形師の作品です。大サービスです。
修理にはひと月ほどかかりましたよ…新しいのをくみ上げるのとあまり変わりませんからね…
依頼主を呼びに言ってもらいましょう…ミリーはダメですね…ストーカー呼ばわりしますから…
「メアリ、銀の小熊亭まで依頼主を呼びに言ってもらえるかしら?」
『はい、マスター。行ってまいります。』
依頼者に引き渡しも終了して、これで終了です…
ちょっとサービスしすぎましたね・・・素材の代金だけで金貨160枚はかかりましたよ…その他にも諸経費がかかるのです…私の儲けは…金貨20枚ほどですね…
もちろん完璧に修理しましたよ。同系統の人形師なので術式も似通ってますからね。人形にも人格とかありますから、その辺りはさわらないよう苦労しました。
今回の収入
人形の修理…金貨200枚
今回の出費
材料費 …金貨160枚
諸経費 …金貨20枚
合計 金貨20枚
依頼者からはものすごく感謝されましたが、もう修理はこりごりです…本来なら金貨300枚はもらわないといけない仕事でしたね…
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