指先で画面を突き、スクロールする。ザッピングするように、次から次へと画面を切り替えていく。下校途中の電車内で、Suzukaのアカウントを探しているが、どうにも見当たらない。どうやって探せばいいのだろうか。和久井に聞くのが簡単だが、避けたい。


 1時間の下校時間を使って、なんとかSuzukaらしきアカウトに行き着いた。和久井に見せてもらった画像を投稿しているので、間違いない。写真をスクロールしていくと、和久井に連れられて、僕も行ったことがあるお洒落なカラオケ店の写真だったり、駅近くの大型店舗やカフェ、行動範囲から最寄りの地域が酷似していることがわかる。水着姿の写真は大きなサングラスと帽子で、顔がわからないが、スタイルの良さは際立っている。顔を出している写真はどうやらこれくらいだ。時折、スクリーンショットをしたゲームの写真も上げているようだ。僕が最も気になったのは、一年くらい前に投稿された写真だった。


 スズカと会う約束をした高架駅からの一枚で、投稿された日付もおおよそ合致している。あの日に、スズカも来ていたのか? ならどうしてスズカは、僕に会ってくれなかったのだろう。



 帰宅した僕は風呂に入って、晩御飯を済ませてから、ゲームを始めた。とりあえずはソロでダンジョンを攻略していく。一通り遊び終えると、メッセージが送られていることに気づいた。スズカからだった。


『新しいダンジョンのボス狩りするんやけど、一緒にどう?』


 おそらくパーティは大方集まっているのだろう。それなら『いいよ』とメッセージを送った。


 ゲーム内のスズカや他のパーティーメンバーの動きをよく見る。敵の動きに対して、パーティの穴ができなら、すぐに埋めていく。普段からこのような動きを得意にしているのに、今日はどうしてもワンテンポ遅れてしまう。Suzukaだ。リアルタイムで一緒にゲームをしているスズカが、実は同じ高校に通っていると噂にあるsuzukaと同一人物なんてことがあるのだろうか。


『お疲れした』


『またよろしく』


 それぞれが適当に辞去していく。いつの間にか熟睡してまった。



「おはよう」


「おはようって、珍しいな普通に挨拶してくるなんて」


 今朝の鈴木はいつもよりも機嫌が良さそうだ。いいことでもあったのかな?


「普段から普通に挨拶してるでしょうが」


「そんなことはないだろ」と僕は言う。ご立腹の鈴木はいつもの人をゴミのように俯瞰する目つきになった。


「あんたって最低よね」


「どっちがだよ」


「なんでもない」


 鈴木の言い方だと、恨まれるようなことを僕がやったみたいではないか。何気ない一言で、怒らせたことがあったのかも知れない。



 全ての授業を終えて、帰宅準備に取り掛かる。今日は和久井に何も言われていない。気づかれないうちに教室を立ち去らなくてならない。カバンを手にして、静かに、限界まで存在感を消すのだ。だが、和久井は僕から視線を逸らしてはいなかった。目が合ってしまったのだ。


「もう帰るのかよ」

 

 和久井は口角を上げてから、わるだくみを企むクソガキのように破顔する。


「帰るに決まってるだろ」


「おいおい白状だな。昨日の約束を忘れたのかよ。お前もニヤニヤにたついて見てだじゃないか」と和久井は胸元で弧を描くようなジャスシャーをした。


「ふざけるな。僕はそんなつもりでは見てない」


「いいからこいよ」


 和久井は僕の肩を掴むと強引に押す。


「さあ、行くぞ」




 Suzukaの正体には三人の候補が上がっている。あくまでも生徒間の喧伝であり、勝手なイメージなどが先行している要素もあるし、決定的な証拠がないので、失礼だとは思う。なのであんまり話を聞きたくない。和久井が言うには、今日は同級生の佐久本に話を聞くそうだ。和久井に連れられて、隣のクラスに顔を出す。


 佐久本は入学当初から優れた容姿で評判が良かった。スカートから伸びる細長い足、小さな顔、所謂モデル体型と言った感じだ。同じ人種とは思えない。それにすこぶる優しいのだ。誰に対しても破顔を晒す。時々男子を勘違いさせるので、狙ってやっているのなら、小悪魔だろう。僕は佐久本が小悪魔かどうか見極めてやろうと思っている。佐久本は僕と和久井を認めると、微笑んだ。


「どうしたの? 急に話がしたいって珍しく連絡してきて」


「少しだけな。悪いけど。ちょっと場所を変えよう」と和久井は廊下に出た。そして歩きながら、続ける。


「単刀直入に言うと、聞きたいことがあるんだ」


「うん」


 和久井はSuzukaが投稿したカフェなどのお店に、行った事があるか聞いていく。僕はプレイしているゲームについて聞いた。佐久本の答え。前者は「知らない。行ってみたい」と愛嬌を醸し出して答えた。後者に至っては、「ゲームはやらない」と言う回答であった。最後に和久井が「Suzukaって知ってるか?」


「スズカって? 誰のこと」


 佐久本は自然な口調で言った。顔色を変える感じもなかった。嘘をついているとも思えない。佐久本と仲の良い友人に聞けば、ゲーマーかどうかは聞けると思うし、嘘をつく必要はないだろうと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る