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「それね。私が言わなくても薄々感づいてるんでしょ?」
「それがよくわからないよ」
「すべては先月の13日。あなたの不自然な行動よ。私はわかったんだから」
深呼吸。僕は乱れた呼吸を整える。愛木の告白はどうやらここからのようだ。
「決定打となったあの写真は、あなたが撮ったんでしょ」
「そんな馬鹿な。どうして僕が」
「そうね。教師の鍵の管理は何も生徒や教師だけとは限らない。あの運転手は朝と夕方は送迎に従事していて、日中は雑務をしていたようなのよ。だからあの学校で最も時間に空きができやすいのは、あのバスの運転手だったの。そのことに君は気づいたんでしょ」
愛木は一呼吸する。
「いいえ。もしかしたら偶然なのかも知れない。あなたは体育の授業を見学することが多かったみたいだし。サボってトイレとか教室に戻ったついでに見かけたのかも。それにあの写真。あなたがいつもお昼ご飯を食べてる場所に近い。昼休憩が終わった後に、そのまま体育館か、グラウンドに向かう途中で見かけた可能性もある」
写真は平行に並ぶ二つの校舎を捉えることができる体育館側から撮られていることは明白だった。
「正確には体育館と校舎を結ぶ渡り廊下よね。この写真の角度が一番盗撮魔の姿を捕らえられてる。もう一枚も同じのような角度から画角を変えて。もう一枚は、あなたが普段からお昼を食べてる場所よね」
体育館の下には打ちっぱなしの運動スペースがある。雨の日にサッカー部がたまに使用するだけで、殆ど使われることもはない。その運動スペース前には屋外式の渡り廊下があって、そこで僕はお昼を食べているわけだ。壁を背にすれば教室から見られることは、まずないから油断していた。よく調べている。
「確かに僕は体育館の方でいつもご飯を食べてるけど、それだけで僕が写真を撮ったとは言えないんじゃないか?」
「楠木くんは普段、弁当でしょ? 親御さんの手作り弁当。けど先月の13日は学校を休んだことにしてから、弁当を作ってもらってなかった。だからコンビニでおにぎりを買ったんじゃない? フィルムが落ちてたの。しかもこれ先月の期間限定のパッケージ」
愛木が見せたのは、期間限定の「新潟県産コシヒカリ使用の熟成いくらと、炙りタラコの二段式爆弾おにぎり」のフィルムであった。
「君は親御さんに体調不良を訴えて、学校を休むことにした。だけど実際は登校して身を隠していた。途中コンビニでおにぎりを買ってね。それで一日中チャンスを伺っていたんでしょ。違う?」
「なんだろうな。点と点を強引に繋げた感じだな。そもそもどうしてわざわざ隠れる必要があったんだ。そこはどう考える?」
「それは……相手を油断させるためだったんじゃない? バスの運転手と口論していたのを見かけたって話を覚えている。あれは盗撮に気づいた君が運転手に訴えたんでしょ? 君は毎朝全く同じ時間に学校に行って、運転手に認識される必要があった。そうやって自分自身が抑止力になることを選んだ。だけどそれでは運転手を完全に止めることには繋がらないと君は思った。そこで運転手が盗撮している現場を抑えることにしたんじゃない。多分、運転手が盗撮するタイミングがあったんでしょ。時間割りの関係やお目当ての生徒とかである程度ね。だから予測することは困難ではない。あとは抑止力である君自身が休んでいると運転手が感づくようにしていれば、盗撮する瞬間を抑えることは容易になったんだ。いいえ、それは違う。タイミングがわかってたら休む必要はない。楠木くん、君はもしかして、運転手を脅迫してたんじゃない?」
愛木は独り言のように続ける。
「次にやったら写真をばらまくとか言って……」
「脅迫は言い方が悪いよ。けどまあ概ね君の言う通りだよ。僕があの写真を撮ったんだ」
僕は愛木を遮って言った。これ以上に彼女の憶測を聞くのは耐えたがたい。
「それで君は僕に何を求めているんだい。まさか共犯とか言い出すんじゃないよな」
最悪だ。僕にも何かしらのペナルティを課すつもりではないだろうか。多少の罰は覚悟の上ではあるが、気分は決していいものではない。
「まさか、学校の秩序。大事な生徒の青春を守ってくれたこと感謝したかったの」と愛木は言う。
「そんな大そうなことはしてないよ」
これは本心だ。
「けど、わからないのよ。どうして楠木くんが女子生徒のために、私に写真を提供したのかが」
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