第29話 ハロウィン 今昔物語

 トリック・オア・トリート。


 今から三十五年ほど前。


 友達が通っていたのが羨ましくて、私は親に無理を言って英語教室に通っていた。


 そこで初めて知った決まり文句。


 当時、ハロウィンはまだ日本に定着していなかった。


 英語教室でハロウィンを学んだ私は、得意げに


「トリック・オア・トリート!」


 と家族に向かって叫んでみたが、もちろんお菓子は出てこない。


 何いってんだ? といったような表情をされるばかりである。


 うん。わかってた。時代の先端をいくって、こういうことよね。


 虚しい風が胸に吹き荒れたあの日から時は経ち。


 まさかこれ程、ハロウィンが巷にあふれる時代が来ようとは。


 今や私は、お菓子をあげる側になってしまった。


 イェイ、ハッピーハロウィン!(ヤケクソ気味に)

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